日本発の5Gの世界観を「ビジュアル」で世界に発信

アプリケーション委員会委員長代理 林俊樹

私とモバイルネットワークとの関わりは、3GのIMT2000をどう立ち上げていくかという頃に遡ります。当時はバンダイネットワークスの社長を務めており、現在はゲオネットワークスの社長へと立場は変わりましたが、ずっとモバイルネットワークに対してコンテンツ面からアプローチしてきました。

私は経営者ではありますが、おもちゃの開発をしていたことが原点となり、課題に対してビジュアルイメージで解決策が浮かんできます。3G、4Gとモバイルネットワークの普及推進に関わってきたときも、それぞれの時点で未来のモバイル環境をイラストで描く役割を果たしてきました。ネットワークの課題や将来像をイラストにしてアウトプットしたことで、業界関係者はもちろん、海外の関係者にもわかりやすいと評判になりました。

5GMFではアプリケーション委員会の委員長代理を務めています。ここでも、主な役割は様々な5Gに対するアイデア、ソリューション、課題を、ビジュアルイメージにして伝えることです。総務省にも5GMFにも、様々なアイデアや未来像を的確に読み解く人材はいます。ただ、その議論を文字のままにしていても、なかなか本質は伝わりません。アプリケーション委員会が描く5Gの世界をイラストにすることで、ユーザーイメージをわかりやすく作り上げるのです。実際に私がコンテを書いて、それをイラストレーターに起こしてもらう形です。

総務省の「電波政策2020懇談会 報告書」に掲載されたイラストによる5G利用イメージの一例。林氏がコンテを書いて作成したものだ
総務省の「電波政策2020懇談会 報告書」に掲載されたイラストによる5G利用イメージの一例。林氏がコンテを書いて作成したものだ

5Gのビジュアルイメージを描いていくとき、最も大きい変化と感じているのはユーザー発信のコンテンツが一段と重視されていくことです。5Gの高速ネットワークがあれば、4Kや8Kのカメラで撮影したビデオが、すぐにネットに投稿できます。一般の人が撮影したビデオが、コンテンツとして価値を持つようになるのです。CGM(Consumer Generated Media)が一段と進展すると言えるでしょう。

また、低遅延の特性も、コンテンツのあり方に変化をもたらすでしょう。クレーンゲームですら、現状のモバイルネットワークを経由して楽しむことは、かなり難しいです。遅延により、操作と実際の動きにずれが生じてしまうのです。手術支援ロボットも、現状ではモバイルネットワークを介した遠隔手術は難しいでしょう。こうしたアプリケーションが、5Gの低遅延性能を利用することで現実のものになってくるのです。

アプリケーション側から見たときに、5Gのネットワークとクラウド技術、人工知能(AI)の連携がリアリティーを帯びてくるのではないかと考えています。例えば、耳元に装着する端末を使って、自分専用のパーソナルコンシェルジュサービスが実現できるでしょう。過去の会話の内容や、現在の状況などをパーソナルAIが判断して、必要な情報を耳元で教えてくれるようなサービスです。5Gの低遅延ネットワークを活用して、知識や判断はパーソナルAIに任せ、人間はもっと生身の人間としてのコミュニケーション能力に特化していくことになるかもしれません。

自動運転を考えても、5GとAIの連携で、単なる目的地までの移動を自動化するという次元から変わっていく可能性もあります。例えば、広告主が100円を利用者に提供する代わりに、特定の経路を経由して目的に移動するといった使い方も始まるでしょう。利用者の移動経路すらも、リアルタイムに広告が変えてしまうアプリケーションです。

5Gは、モバイルネットワークのスペックが進化していくという意味だけでも、大きな変化が起こります。しかし、単独のテクノロジーだけではなく、様々なテクノロジーと組み合わせ、アイデアを膨らませていくことで、もっと新しいアプリケーションが生まれてくると考えています。そうした未来の世界をビジュアルイメージにして国内外に伝えることで、テクノロジーを活用した豊かな社会への架け橋にしたいと思います。