SIMのオーナーが多様化する時代の到来

ローカル5GではSIMはインテグレータ・自治体などのサービス提供者の持ち物になる。自分自身でSIMに機能を加えてサービスにつなげていくということがやりやすい。携帯電話のSIMカードで国内No1シェアの大日本印刷株式会社・情報イノベーション事業部の神力哲夫氏(第2部部長)と高井大輔氏(第2部 第1グループリーダー・シニアエキスパート)がSIMカードからのローカル5G利用法を語る。

世代にあわせて進化するSIMカード

神力 もともとSIMカードは第3世代の前の第2世代(GSM)のときに、ヨーロッパで使われ始めたのが最初で、SIMを使ったサービスモデルが確立された。ご存じのとおり、第3世代の3GPPもそのGSMの考えを引き継ぐことになります。この時に日本も国際標準に合わせるという形でSIMの採用に切り替わり、このタイミングで、我々も参入し、キャリアさんと一緒に技術開発を進めてきました。

SIMカードの技術的中核は耐タンパー性(tamper resistance)です。SIMカードの中にICチップが入っていて、そのIC チップの中に通信サービスの加入者を認証する機能が入っているのですが、その鍵はどうやっても見られませんよ、というテクノロジーです。

暗号解読手法の一つにサイドチャネル攻撃(Side Channel Attack)」というものがあります。例えば、暗号を処理しているコンピューターに特殊なコイルなどを近づけて、その物理的な特性を外部から測定して、内部情報の取得を試みる攻撃ですが、このような高度な攻撃にも耐え得る特性を耐タンパー性と呼びます。SIMカードはこのような特性を備えているとお考えください。

SIMのオーナーが多様化する時代の到来

普通の携帯電話の中に暗号鍵を入れてしまうと、例えば、メモリなどを直接タッピングしてしまえば中の鍵は解読できてしまうのですが、SIMカードは開けた瞬間にライトセンサーが起動して機能を停止してしまうのです。これ以外にも、さまざまな対策が小さなチップの中に組み込まれています。この中に鍵を入れておけば第三者は改竄できない。そして世界に1個しかないデバイスであることが保証される。

そもそも欧州でSIMカードを採用した理由のひとつは、この耐タンパー性にあったのだと思います。通信サービスの加入者情報が簡単にコピーできてしまうと(キャリアとしても)ビジネスとして成立しませんからね。

SIMカード自体の技術開発は欧州を中心に発展してきましたので、欧州に大手のベンダが集中しています。国内では、IC カードそのものでは弊社を始めいくつかのベンダに要素技術があります。ただし現在SIMカードを開発、製造している国内ベンダは弊社だけ、というところでしょうか。

DNP SIM for ローカル5G

ローカル5Gで大きく変わるところが二つある、と考えています。ローカル5Gではネットワークを自営で運用できること、そのため、SIMを自社で調達し自由に利用できるようになることですね。

ローカル5Gの場合は、SIM自体はインテグレータ、あるいは自治体などのサービス提供者の持ち物になりますから、自分たちで何か機能を加えてサービスにつなげていくということがやりやすいはずなんですね。それぞれが特徴のあるサービスを展開し、新たなビジネスチャンスが生まれるはずです。そのためのコンサルテーションにも力を入れていきたいと考えています。

SIMのオーナーが多様化する時代の到来

SIMのオーナーが多様化する時代の到来

SIMのオーナーが多様化する時代の到来

高井 少し味付けを変えられると考えていただければよいかもしれません。例えば簡単な例ですが、今のスマホ画面には受信状態を示すアンテナのピクトグラムが表示され、その横にキャリアの名前が表示されますが、ローカル5Gになれば、所有者が千葉県なら「chiba」などと表示できたりします。つまらないことかもしれませんが、そこだけで自治体色を出すこともできます。重要なセキュリティ機能では全くありませんが、「自営のネットワーク」がブランディングされるのは大きいと思います。

もう一つは、ローカル5G端末は人が持ち歩くものに限らない、ということですね。例えばルーターに入れて、ある限られた範囲でWi-Fi サービスを飛ばすためのバックボーンでローカル5Gを使う、というシーンが想定されます。そうするとSIMは機械に入れっぱなしになる。そこでSIMを入れる機械とSIMで紐付けをするような機能を使えば、極めて安全です。しかもこの“機械”なるものが小型の場合もある、と想定すれば、IoTセキュリティに使えそうだ、とイメージしていただけると思います。

またIoTは環境条件が厳しいところで使うことも想定する必要があります。その利用形態に応じて形状や大きさを選択したり、動作の温度条件、例えばマイナス40度から上105度まで耐えられる製品を選択する、ということも必要になってくる。また物理的な性能のみならず、ローカル5Gの場合は、その中にどのようなデータを入れていくべきか、というところからご相談を受けることもあります。

神力 SIMの使い方、データフォーマットのつくり方みたいなところのコンサルティングなどもビジネスとして始まっているということです。ただ、我々としても、SIMのビジネスだけで終わってしまうと面白くないため、デバイスのセキュリティ全体にビジネスを広げられないかと思っています。もともとIC カードは一個一個に個別の鍵を入れて大量発行してお客さま届けるというビジネスです。IoTにおいても機器を個別化してお客さまに届けるというケースがでてきます。そういうところで我々の持っている暗号鍵などの重要なデータをセキュアにハンドリングする技術を応用することができないかと常々考えています。

Wi-Fiとのハンドオーバーへの需要もあるのかなと思っており、ここでは、SIMがセキュリティの中心に来るはずです。Wi-FiでSIMの認証を使うという規格もあるので、SIMを核にしながらネットワークを渡り歩けることになるでしょう。

SIMカードの将来

神力 SIMカードの近い将来の発展形としては先ほどから申し上げている組み込みタイプに加え、ソフトウエアSIMが考えられます。IoT機器のメインプロセッサーの中にセキュリティ領域があって、そこにSIMを搭載するという仕組みも考えられています。我々、そこに対して何ができるかを考えていかなければいけないところもありますが、SIMは媒体としてだけでなく、データを加工して鍵をつくって鍵を書き込むというところ自体が安全な環境でなければならない。仮にソフトベースでもそこの作業は絶対必要ですから、そこで我々のサービスを使っていただくというのがあるかなと思っています。いずれにしても形状も形式もかなり変わっていくでしょうね。ただ、これがローカル5Gの世界でどのように使われていくのかはまだ正直見えていません。関係するベンダの方々と議論していきたいと思います。

高井 ネットワークに様々なものが接続され、それらをセキュアに連携させていく中で、SIMをトラストアンカーとして利用できると考えています。わかりやすく言うと、この機械は正当なものか、私がちゃんと本人ですよ、というところを保証していかなければいけません。その際に、セキュリティの基点となるのが、SIMということになるかと思います。

……eSIMについては?……

神力 eSIMとはembedded SIMの略で、機器組み込み型SIMのことを指します。

カードタイプのSIMと違い、端末本体に埋め込まれているため差し替えることなく通信キャリアの切替を行ったり、場合によっては複数のキャリア情報を保持することも可能になります。

eSIMは、一部のスマートフォンやタブレットに搭載され始めていますが、日本では、まだ広く活用されているとは言い難い状況です。DNPとしても、eSIMの製造に限らず周辺ビジネスへどのように関わっていくかその取り組みについて社内で議論を進めています。

神力 最後に強調しておきたいのは私たちのサポート力です。弊社はSIMに内蔵するソフトウェアの開発から、製造・発行に至るまで、自社で行っており、そこで獲得した知見を活用することで、これからSIMを導入される方々を手厚くサポートしていきます。

高井 ローカル5Gへの取り組みを開始した当初は、限られたお客様とお話させていただいていたのですが、昨今は、こちらから新規でご提案する機会も多くなってきました。また、Webサイト等を経由してお引き合いをいただくケースも増えてきており、既に40社以上のお客様と打ち合わせを始めています。メインはネットワークインテグレータのお客様ですが、今年に入ってから地域のお客様が徐々に増えてきているのがやはりローカル5Gならでは、ですね。

インタビューに対応いただいた大日本印刷株式会社・情報イノベーション事業部PFサービスセンター セキュア・エレメンツ・デザイン本部の3名左から高井大輔氏(第2部 第1グループリーダー・シニアエキスパート)神力哲夫氏(第2部 部長)服部雄一氏(第2部 第2グループ)
インタビューに対応いただいた大日本印刷株式会社・情報イノベーション事業部PFサービスセンター セキュア・エレメンツ・デザイン本部の3名
左から
高井大輔氏(第2部 第1グループリーダー・シニアエキスパート)
神力哲夫氏(第2部 部長)
服部雄一氏(第2部 第2グループ)

https://www.dnp.co.jp/biz/solution/products/detail/10157626_1567.html