普及期を迎えた5Gをさらに拡張した5.5Gによる直近の未来の開発に着手
5G基地局は通信機器大手3社で約8割を占める寡占市場だが、5Gユーザーの数、ということになると圧倒的に中国だ。すでに日本の人口を超える1億8,000万人のユーザーが5Gを活用している。その中国国内で基地局のトップシェアを誇るのがファーウエイである。そしてファーウェイの資材調達先として大きな貢献をしているのが数多くの日本企業である。日本国内の5Gの普及とパートナーシップの拡大を担うファーウエイ日本の3人のキーパーソンに今後の戦略を聞いた。
中国における5Gでトップシェアを確保
元野 中国は昨年から今年にかけて、5Gを始めてから1年が経過した状況です。すでに1億8,000万人のユーザーがいます。弊社はここでトップシェアをすでに確保しています。最初の年は、主に5Gのコンシューマー向けのサービスを提供するというところで基地局をかなりの速度で展開してきました。今後、やはり5Gの設備投資をマネタイズするという必要があるので、B2Bが非常に重要になってきます。今の中国の通信事業者さんの共通のチャレンジが、B2Bを可能にするためのネットワークづくりです。5GのコアネットワークをNSA方式からSA方式にアップデートしていきます。但し、NSA を活かした状態でSAを入れなければいけないので、デュアルコアという機能をサポートしたコアを導入しています。基地局から見ると、NSAとSAの両方のコアにつながった形になります。両方をハイブリッドで運用する必要がありますが、SAはB2Bのユーザーを重視していくことになるでしょう。
中日友好病院がリードする中国のテレメディシン
元野 中国は医療における5G活用も前向きに進めています。健康情報はとてもデリケートな個人情報だ、という認識は日本と同様です。そのためブロックチェーンの利用も検討しています。これならデータを外から覗き見たり、改竄したり、破壊することは不可能です。
インターネットと医療サービスを融合させた形でのテレメディシン(遠隔医療監視)の5Gバージョンということでは、中国の中では中日友好病院注2 (China-Japan Friendship Hospital)がリードしています。中日友好病院は、現在、病院内で470の小さな5Gの基地局を展開して、病院の中で無線が使えます。その病院の周りも、つまり屋外についても5Gのカバレッジがつくれるように4基の基地局を展開しています。ビデオ検診、皮膚鏡検査、アナログ聴診器のデジタル化、そのほか超音波診療・内視鏡・病理検査への5G利用のシナリオが整いつつあります。
加えて、中日友好病院では、その5Gの適用を広く展開し、標準化することを想定しています。中国のインターネットテレメディシンを導入している病院、通信事業者、医療機器メーカーなどのような、正にバーチカル(業界別)を横断した協議を進めています。
その結果、まず最初の医療版5Gの基本仕様が2019年10月にリリースされました。主にアクセスネットワーク、端末、エッジコンピューティングの要件などを定義しています。先に述べた病院向けセキュリティ仕様についてもブロックチェーン技術の品質管理規定やセキュリティ基準の評価を経た後、2021年6月には要件定義が完了する予定です。
5Gを産業へ活用してそれを普及させようとする場合、このようなルールづくりを業界全体で取り組んでいく必要があるのではないかと思います。
省エネ基地局でローカル5Gを推進
朱 日本におけるローカル5Gの実装は、IVI注3との連携がメインになります。つまり工場でのローカル5G利用に当面は特化して行こうと考えています。具体的なユースケースとしてはIVIの産業用5G活用白書注4の中で触れられているように、実際の生産現場視点での課題解決を目指すものが多く、2021年2月ごろに最初の実証実験が完了する予定です。単なるローカル5Gだけではなくて、5GプラスAIという形のコンビネーションが特徴になるはずです。
ローカル5Gはドイツでも盛んですが、特に大手企業は、工場内のデータやネットワークを第三者に触れられたくないと考えています。それらを内部で閉じて扱おうとする傾向が強いため、ローカル5G向きですね。
赤田 ローカル5Gを利用する必然性が高いのは当面、工場と病院でしょうね。病院では、感染しちゃいけないから離れていなければいけない、Wi-Fi やLTEではスピードが出ない、あるいは干渉を避けたい、という意味で必然性があると思います。ただ、もっと簡単に免許が取れるとか、あるいはコアネットワークなしでも動く、という状況にならないとローカル5Gを使うのが必然ということにはなりにくいでしょう。
ファーウエイの5Gの特徴
元野 5Gの一つの特徴にDSS(Dynamic Spectrum Sharing)があります。LTEの使用する周波数帯の一部に5G NRを導入する技術ですね。日本語では「動的に波長分布を分け合う」ということになるかと思います。弊社はここが得意です。中国では2つの事業者さんが5Gの電波を100メガずつ持っていて、それらをシェアリングすることでユーザーの体感品質を倍に高めつつ、低設備投資と敏速な基地局展開を可能としています。基地局のアンプとしては200メガ分サポートしなければいけない。ところがコンポーネントキャリアがどんどん増えていきますので、シェアする事業者さんが同じでも帯域が増えてくれば無線機の帯域も広げる必要がある。そのような場合でも帯域400メガまで対応しているというのが弊社の基地局装置の特徴になるかと思います。
もう一つはマッシブMIMOですね。5G基地局にはアンテナが例えば64素子付いているわけですね。一方、4Gは4Tx とか8Tx などが一般的に普及していますが、5Gを4Gと同じように普通に製造してしまうと、もうべらぼうな消費電力になってしまう。それを弊社の技術で、同等の送信出力の4Gのアンプと比較しても、同じ消費電力に抑えています。ということで、5Gを入れたからといって、電気代がボンと高くなるということは、弊社のアンプに限ってはありません。この辺りも弊社の技術的なアドバンテージかなと思います。
赤田 3.7GHz帯の64Txにはファンが付いていません。自然空冷なのです。これができているベンダーは他には多分ないと思います。一方、日本のベンダーの機器にはファンが付いている。十数年前は逆でした。ファーウェイの装置には冷却ファンが付いていて、日本ベンダーのものにはなかった。逆転したんだな、と思いました。
元野 加えて、弊社は研究開発に投資できる額が、他社と比較にならないほど多いのではないかと思いますね。
朱 開発スピードもかなり違いますしね。
日本のものづくり品質は相変わらず高い
元野 中国のモバイル事業者さんは、今、B2Bのビジネスを一生懸命、イネーブリングしたいと思っているんですね。いろいろ、1000以上のパイロットをやったり、CMCCさんもやっていますけれども、未だに、まだキラーなB2Bのビジネスというのはないらしいです。既に、商用で使われているものもあるにはあるんですけど、まだまだ、全然、数は少ない。
日本の産業というのは、やっぱりものづくりが非常に得意で品質管理も徹底している。中国の企業が真似するべきところがいっぱいあるんですね。そこが、B2Bに5Gを使うというところで、中国はすごく注目するわけです。まだまだ日本に学ぶべきものは、姿勢なども含めて言えば多いと思います。特に工場における品質の高さですね。
赤田 日本の通信事業者の品質というのはやはり世界一なので、そこでやっぱり認められると世界でも認められたことになる、というのはいまだにあるのです。外資系の通信機器ベンダーが日本に注目しているのはビジネス規模だけではなく、品質とその管理能力の高さです。日本の通信事業者の求める品質や機能は世界一、と言っていいと思います。
例えば、一番いい例が、何かシステム障害が起きました、というときに、海外だったら当たり前のように、すぐにリブートとかやるんですけど、日本の場合にはそんなにすぐにはできないとか、クオリティ的に非常に厳しいものを求められるので、そこで鍛えられればどこでも通用するというのはあるので、そこは重要なマーケットということになります。
もう一つは仕入れ(調達)ですね。ファーウェイが基地局をはじめ、様々なものをつくっていく--さっき、マッシブMIMOが非常に進んでいるという話をしましたけれども、部品とか部材レベルでの日本の技術力の高さには、非常に感謝しています。
実際、ここ(日本)での売り上げよりも調達のほうが10倍以上、大きいです。だから私たちにとって日本はマーケットであるとともにとても重要なパートナーなんです。
朱 日本は高品質を追求しているので、ファーウェイの機材を持ってきて、ここでテストして、本当にこういう高い要求を満たせたかどうか。そこに意味があるんです。実際、私から見れば、ファーウェイと日本はいいパートナーになれると思いますね。
赤田 調達と最先端の技術を磨くための場と、その2つですね。特に最先端の技術が“ある”というよりもむしろそこに向かっていく姿勢ですね。例えばBeyond5Gを立ち上げていこうとするときの官民一体となった動きなどが象徴的かなと思います。無論6Gについては各国で取り組んでいますが、日本のようにこれだけ人をかけて、ああいうことを立ち上げようとする国はなかなかないでしょう。5Gの初期でもそうでしたし、4Gのときもそうだったような記憶があります。常に最先端を行こうとする姿勢に学ぶところは大きいです。
ファーウェイでも6Gへ向けた議論は活発化していますが、どちらかといえば直近の未来、つまり現行の5Gを拡張して6Gへつなげる道筋を段階的に作っていくための作業が喫緊の課題になっています。とりあえずその中間に位置する技術マイルストーンを仮称5.5Gと名付け、上りリソース増強・リアルタイムなブロードバンド通信・通信とセンシングの融合に向けて技術を延ばす必要性を提案したところ注5です。こうしたビジョンは今後3GPPなどの標準化活動へ要件として入力する予定ですが、日本の皆様ともぜひ協調しながら明るい未来を共に築きたいと考えています。
華為技術(ファーウエイ)日本株式会社
赤田正雄(あかた・まさお)CTO/ CSO
朱厚道 (しゅ・こうどう) 標準化・事業推進部 事業戦略・レギュレーションディレクター
元野秀一(もとの・ひでかず)技術戦略本部 キャリア技術戦略部シニアテクニカルマネージャー
注1 Global Mobile Broadband Forum 2020
注2 China-Japan Friendship Hospital
注3 Industrial Value Chain Initiative
注4 産業用5G活用白書
注5 https://www.huawei.com/jp/news/jp/2020/hwjp20201113c