AIエッジ×5Gで社会インフラを高度化

ローカル5Gを利用すること自体を差別化要因にできる期間はおそらく非常に短い。すでにベンダーのオリジナリティそのものが問われるフェーズに突入した。OKIのローカル5G戦略は「AIエッジを利用した機動力・実装力による工場5G化での生産性の向上」にある。特に生産ラインが頻繁に変わる中小企業の工場にフォーカスしているのが特徴だ。

ローカル5Gの前倒しが加速

AIエッジ×5Gで社会インフラを高度化

佐々木 ローカル5Gの施設コストは、キャリア5G(パブリック5G)の普及度合いに依存し、ある程度、キャリアの基地局が普及し、端末としてもいろいろなものが大量に出ていかないとコストが下がり難いものと考えています。中国などと比較すると出遅れてはいますが、日本もようやくキャリア5Gがかなり精力的に基地局を打っていくというフェーズに到達しました。したがってローカル5Gも(当初の我々の予想よりも)前倒しで普及しそうだ、という実感があります。ローカル5Gそのもののユースケースもかなりユーザーと共有できるようになってきたので、全体の温度感もかなり高くなってきているという印象です。弊社では20年12月から「ローカル5G支援サービス」の提供を開始したり、あるいは実際に自社で(ユーザーとして)利用していると言うこともあり、問い合わせが増加している、という状況です。

本庄の工場でスマート工場化を実現

AIエッジ×5Gで社会インフラを高度化

佐々木 現在(OKIの)本庄工場にローカル5Gを導入し、スマートの工場の実現に向けた諸施策を推進しています。本庄工場は元々電話機や交換機の製造工場でしたが、現在は、ホームゲートウェイ、ONU(Optical Network Unit:光回線の終端装置)、(これは後ほど詳しく説明しますが)AIエッジのAE2100、などの情報通信機器を生産しています。

「生産検査工程におけるAI外観検査異常判定システム」は、生産ラインにアッセンブリープロジェクションシステムTMを導入して、そこでの生産品の品質を確認します。

従来の目視検査・外観検査の良否判定工程に高精細カメラを導入し、AIエッジと連携することで、その製品の部品搭載のチェック、印字されている印刷物の精度などたくさんの要素を確認し、自動判定結果に基づくデバイス制御を行うことにより、作業品質を高めるという流れになります。ここにローカル5Gを適用することで、無線環境でも高精細映像を大量かつ安定的に流せるようになります。

AIエッジ×5Gで社会インフラを高度化

AIエッジ×5GでDXを加速

佐々木 OKIは「AIエッジ×5G」というコンセプトでお客様のDX推進を支援しようと考えております。AIエッジの中核はAE2100というエッジコンピュータです。ディープラーニングの推論環境を提供するインテルのOpenVINO™ ツールキットとAIアクセラレーターである「インテル® Movidius™ Myriad™ X VPU」を搭載し、様々なセンサーを収容するインタフェースや多様な通信方式に対応しており、おりLTEや無線LAN、920MHzマルチホップ帯無線「SmartHop®」にも対応し、5Gへの対応も予定しています。

AIエッジ×5Gで社会インフラを高度化

OKIは、長年ネットワークのエッジ領域、例えば銀行のATMであったり、プリンターであったり、ホームゲートウェイであったり、現場に近い端末を商品として提供してきたという実績があります。これらのエッジにAIを導入し、現場で起きていることはなるべく現場に近いところで即時に処理することを基本に、必要に応じてクラウドと連携しながら、高度な社会インフラの実現を目指しています。OKIの得意分野であるネットワークエッジのAI化と高品質な5Gネットワークは非常に親和性がよいと考えており「AIエッジ×5G」でお客様のDX推進の支援に取り組みます。

今までは、エッジ(端末)の情報を、どちらというと全部クラウドやセンターに吸い上げていたのですが、エッジで処理をすることで、情報増大に伴うネットワーク負荷の軽減や、現場近くで迅速に結果を得ることができるというメリットがあります。当然、エッジ処理でセンター処理の全てを実現できる訳ではないので、当然最適な情報に絞り込むということが必要になると思っています。この絞り込み方に独特のノウハウがあります。もちろん業界によって処理する内容が違ってくる為、そのあたりは業種に合わせて柔軟にカスタマイズしてゆきます。

実際、工場ネットワークで大量の映像データを扱うのは非常に難しく、どうしても情報ロスや遅延等の課題があります。その為、生産現場で発生した情報はその場で最適化するというニーズがあると考えています。更に、生産現場が無線化できる最大のメリットは有線が無いことで生産ラインのロケーション変更等に柔軟に対応できる、ということにあります。これらの向上への取り組みはこれらの生産効率向上への取り組み工場が日常的に抱えている課題であり、引き続き「AIエッジ×5G」で課題に対応し解決に向けた提案を進めます。

浜口 ロボティクス領域では、AIエッジをロボットに搭載して「移動するAIエッジ」という取り組もみも実施しています。現場環境に合わせて自分が勝手に動いていくわけです。これはいわゆる「きめ細やかな現場支援」になるでしょうね。現在は検証用ロボットも自分達で用意していますが、ロボット自体を売るというよりも、「移動するエッジ」という概念をさまざまなユースケースで検証(PoC)していくことが目的です。

自動運転などのインテリジェント領域におけるローカル5G活用

浜口 インフラ側でAIを搭載するような領域での事業の可能性が今後は増えていくと考えています。リアルタイム性などを考慮してなるべくエッジ側にAIを載せていくというユースケースです。インフラ側のインテリジェンス化としてもっともわかりやすいのが自動運転への支援ですね。道路やクルマに対する情報提供に加え、現場を細かくスピーディに監視する能力が必要になります。遠くからぼやっと全体を監視する、というよりは、細かいセグメントに分けて、狭域を正確に監視していきたいと考えています。

AIエッジ×5Gで社会インフラを高度化

この絵は、自動運転車両(オレンジ色の手前のバス)が車載センサーで検知できないエリアの情報(遮蔽物裏の赤い車両)を、路側センサーとして設置したカメラやLiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)を使って検知し、エッジ側で検知物の認識、位置、移動速度などの判定処理をして、それを通信で自動運転車両側に伝えるシステムです。

公道で使う場合は、現在検討されている自動運転支援用の専用通信システム、またはキャリア5Gが候補になるでしょう。一方、我々が現在検証しているような、工場の敷地内などの限定領域で使用する場合には、ローカル5Gを適用することにより、情報を低遅延で伝える事が可能になります。将来的には例えば、資材を積んだ自動運転のトラックが工場まで到着し、その後工場敷地内は工場毎の規則に従って走行しながら指示された場所まで移動する場合、公道区間はキャリア5Gを活用し、工場敷地内ではローカル5Gを利用するようなケースが考えられます。

このようにケースも想定して、スマート工場の実現に向け、建物内と屋外でのローカル5Gの性能評価を進めており、本検証結果をもって、各種ユースケースへの展開検討を進めていく予定です。

群馬県・太陽誘電・沖電気で地域課題解決型ローカル5Gを推進

浜口 総務省事業「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証(工場分野)」を群馬県と太陽誘電とOKIで受託して活動しています。先ほどご説明した本庄工場での検証この一部です。

我々の工場と、それとは少し異なるタイプの太陽誘電さんの工場で(OKIの)ローカル5Gシステムの検証を実施しています。両社では製造しているものが異なるため、工場自体も建物の構造や製造ラインの構成などに違いがあります。そのため、工場現場の電波伝搬環境も異なります。ここで得られたデータを分析することで、工場へのローカル5G設置に関するモデルを検討し、来年度以降、県内の地域企業におけるローカル5G活用の可能性を探ろうと考えています。ここでローカル5Gのビジネスモデルの検討を進め、各種工場へ横展開を実施していきたいと考えています。

OKIはこれらの活動を通して、「地域の中小工場等へのローカル5Gに強い会社」として展開モデルを確立したい。OKI自身も製造現場を持っているわけですから、スマート工場に向けた効果的なユースケースの実証や課題抽出とその対策の検証を自社環境でどんどん実施していきます。システム導入は大規模な工場から進んでいく可能性がありますが、OKIは小~中規模のシステムをターゲットに、AIエッジを活用したユースケースと組み合わせて費用対効果の高いものを提供できるように検討を進めていきます。

21年度以降は商用バックアップと将来に向けた継続的拡張

佐々木 今後はお客様の商用サービスを想定した上でなるべく商用に近い環境を揃え、いろいろなフィールドでの事象に対応・解決できるような準備を進め進めます。増設とか冗長構成などいろいろな形に対応していかなければならないと考えています。導入時はシンプルな構成かつスモールスタートで開始して、その後順次拡張してゆくというお客様が多いと考え、機能拡張や規模拡大の際でも安定したシステムが提供できるようサポート体制を構築し、継続的な運用を支援します。

現在、5G領域はオープン化が加速しています。今までのシステムは特定のベンダー装置が一式と一部の周辺装置を入れれば構築できましたが、今後はO-RANや5Gコア機能のオープン化など、マルチベンダーでのネットワーク機器の組み合わせへの対応が必要になると考えています。OKIは長年、通信キャリア、法人等ネットワークビジネスにおいて、マルチベンダーの機器を扱い様々なネットワーク設計・構築に取り組んできました。これらのスキル・ノウハウを活かすことでローカル5Gにおいてもソリューションベンダーとしての強みを出してゆきます。

また今後は、マルチベンダーでの柔軟なネットワーク構築だけでなく、アプリケーションやユースケースの創出にあたってはOKIのエコシステムが生きてくると考えています。

OKIとしては様々なパートナー様と連携しながらお客様のご要望を実現する為に、AIエッジを中核に据えたアプリケーション寄りの部分をもっと前面に押し出していきます。OKIはローカル5Gを単体で提供するだけはなく、支援サービス、パートナー連携、ユースケースを含めたトータルでのソリューションシステム事業展開を進め、それらの取り組みの中でOKIらしさを出してゆければと考えています。

佐々木 玲(ソリューションシステム事業本部 エグゼクティブスペシャリスト)
佐々木 玲
(ソリューションシステム事業本部 エグゼクティブスペシャリスト)
浜口雅春(ソリューションシステム事業本部 IoT事業推進センター 部門長)
浜口雅春
(ソリューションシステム事業本部 IoT事業推進センター 部門長)