Tokyo 5G Boosters Projectについて

東京都産業労働局商工部は経営・技術支援、創業支援など様々な商工施策を通して、中小企業振興を図っている。その中でも創業支援課は若手起業家の育成・支援、各種助成・知財などの相談、創業支援施設の提供などを行っている組織だ。同部署が5G・ローカル5Gの将来性に着目し、2020年10月27日にキックオフした「Tokyo 5G Boosters Project」の狙いについて聞いた。

Tokyo 5G Boosters Project(Tokyo 5G Boosters Project)について

Tokyo 5G Boosters Projectとは

美園 「Tokyo 5G Boosters Project」は東京都と民間事業者および開発プロモーターが連携して、5G技術を活用した製品やサービスの開発を行うスタートアップを支援することで、イノベーションの創出や新たなビジネスの確立を促進することを目的として、令和2年度から新規で事業を開始しました。

令和2年度は、開発プロモーターを3社採択させていただいております。これから3カ年度ですので、令和4年度末にかけて、それぞれの開発プロモーターが核となって、大手のキャリアを含め、さまざまな事業者と連携しながらスタートアップの開発を資金面や事業面から支援していく予定です。

この事業の立ち上げのきっかけはやはり5Gの技術の将来性に着目したところにあります。5G技術は、今後、大きな成長を見せる自動運転や遠隔医療などの領域において活用されることが期待されていますので、我々の部署(東京都産業労働局商工部)は、スタートアップや中小企業を支援するのがミッションですから、スタートアップがいち早く5G技術を活用したサービスを開発することで、このビジネス領域におきまして、大きなアドバンテージを築くことが可能と考えています。

一方で5Gはまだまだ実装エリアも限定的でございまして、技術開発を進める上で、5Gを実際に提供できる大手キャリアやローカル5Gを実装できるベンダーの協力が必要と考えております。しかし、スタートアップ単体ではなかなかさまざまな事業者に協力を仰いで開発を進めていくのは難しいはず、と考え、「開発プロモーター」という事業の先導役を核として、こうしたスタートアップの開発をさまざまなプレーヤーを巻き込んで支援していく必要があると考えたのが、この事業の特徴でもあります。

大平 5Gの技術に特化した開発を支援するということもありますが、スタートアップの会社自体を成長させるという目的もありますので、日頃からスタートアップのアクセラレーションをなりわいにしているような事業者やさまざまなプレーヤーを巻き込んで新規事業をどんどん生み出していくような事業者が開発プロモーターに相応しいと考えています。そこにキャリア(MNO)もサポータとして関与する、というスキームです。どのキャリアを選択するかは開発プロモーターが決めます。1社と組んでいるところもあれば、複数社と連携しようとしている場合もありますし、独自でローカル5Gの環境を用意しているところもあるようです。

美園 「開発プロモーター」という制度が非常にユニークかと自負していますが、実は東京都では、これまでにも他のプロジェクトで民間事業者と連携した支援スキームを採用してきました。基本的には外部有識者を交えた選定委員会で(開発プロモーターを)決めます。このような形で民間事業者の方にご協力いただくスキームは(他の自治体でも)少しずつ増えているように感じています。

大平 東京都としては、限られた予算で多くの企業を支援していきたいので、1プロモーター1社支援で、けっこうな予算をかけて、結局、3年後、3社だけの支援で終わるのではなく、より多くの企業を支援できるよう、開発プロモーターの方々には3カ年度通して5社以上支援してほしいということでお願いをしています。

スタートアップの発掘・選定方法は基本的には開発プロモーターにお任せしています。公募をして、プロモーター自身が選定委員会を作って何社か選ぶというような方法もありますし、プロモーター独自のネットワークや基準で、ピンポイントで声をかけて探してくるというようなケースもあります。もちろん、スタートアップの選定をする上では東京都が定めた要件を満たしてもらう必要があり、、東京都に事業所がある、または今後、東京都内で起業する予定がある人(あるいは企業)などを要件としています。

すでに3社のプロモーターから事業テーマと支援スタートアップの想定分野というのが出てきていて、例えば、クリーク・アンド・リバーさんですとVR/AR、大容量映像伝送システム、自動運転関連、TISさんはスマートストア、AI画像解析、5Gセキュリティ、それから、プロトスターさんはVR/ARを用いた医療コミュニケーション、企業研修などというのがそれぞれの事業スタートアップの想定分野として出てきています。

5Gと言えば、今、けっこうVR/ARというのがトレンドではありますし、遠隔医療系、オンラインビジネス系だと東京都が目指す「新しい日常」の定着に資する内容になっていると思います。各開発プロモーターの皆様もいろいろ考えてテーマを設定してきていただいているようでして、東京都としてはありがたいですね。

開発プロモーターとスタートアップというプレーヤーに加えて、連携事業者を巻き込んだ座組の充実というのも本事業のKPIの一つにしております。例えば関係する大企業や中堅企業、あとは大学とか研究機関ですね、そういったところも必要に応じて本事業の座組に組み込んでほしいというのは、こちらからもお願いしている内容になります。

プロジェクトで実現したい“新しい日常”

美園 東京都は新型コロナウイルス感染症の拡大防止と経済社会活動の両立を図っていく“新しい日常”の定着を目指して、新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップを策定しています。感染症拡大防止と経済社会活動の両立というのは難しいことですが、リモートワークツールやオンラインビジネスツール、遠隔監視サービス、新しいエンタメのあり方など、こうした局面だからこそ生まれる新たな需要を掘り起こすであろうことも確かだと思います。企業の皆様には、この“新しい日常”の中に存在する新たな需要を取り込み、ビジネスチャンスを見出していってほしいです。

大平 私たち産業労働局商工部創業支援課は、スタートアップや起業家支援などを行っている部署ですが、東京都全体でみると、他の部署では、東京都が令和元年12月に策定した「『未来の東京』戦略ビジョン」の取組の一環として、東京都立大学南大沢キャンパス及び日野キャンパスに、ローカル5G基地局を設置し、ローカル5G環境を活用した研究や実証実験などを行うプロジェクトもスタートしています。(現在は令和3年3月30日に発表された「『未来の東京』戦略」に位置付けられています。)これもまた「大学の新しい日常」を模索していくケースになるのだろうと思われます。

「Tokyo 5G Boosters Project DEMODAY 2021」を開催

大平 去る3月2日に、東京都立産業技術研究センター(産技研)との共催により、「Tokyo 5G Boosters Project DEMODAY 2021」を開催しました。産技研自身がローカル5Gの免許を取得して中小企業向けに5G環境を提供して実証実験等をしていただくDX推進センターを昨年11月に立ち上げたので、我々のプロジェクトの成果を報告する場として活用させていただくことでPRの相乗効果を狙い、連携しました。

奥村幸彦氏(第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)5G実証試験推進グループリーダ/株式会社NTTドコモ R&D戦略部 シニア・テクノロジ・アーキテクト)には「5Gの技術概要と多様な分野での活用事例の紹介」、 東京都の荻原聡部長(当時:戦略政策情報推進本部ICT推進部情報企画担当部長)は「スマート東京・TOKYO Data Highway 先行実施エリアの取組」、そして片桐正博部長(当時:東京都立産業技術研究センター・5G次世代通信応用担当部長)には「都産技研の中小企業の5G・IoT・ロボット普及支援事業」というテーマでご講演いただきました。そして最後に3社のプロモーター及び支援スタートアップの方から令和2年度の成果等のご報告をいただきましたが、このイベントをきっかけに、中小企業、スタートアップの方が5G技術を使ってこういったことができるんだったらうちもやってみようという気づきとなり、本事業に関心を持っていただければと考えています。

東京都・スタートアップ・5Gの将来

大平 5Gには、3Gや4Gにはなかったインパクトを感じています。単なる大容量化ではなくて、社会の制度設計を変えていく力があるように思えます。まだまだ基地局の整備が追いついていないとは思いますが、サービスやアプリケーションレベルで5Gの特性を生かした新しいものが出てくるのはそんなに遠い将来ではないと考えています。

美園 今年度もこの事業は継続し、スタートアップを支援する開発プロモーターの募集も予定しています。コロナ対策や東京2020大会の開催など、そのときどきの状況を勘案しながらにはなりますが、まずはスタートアップ企業が自らのコア技術で5Gを活用して新たなビジネス等を生み出していくというところをスタートとして、最終的にはそこで生まれた製品・サービスが「新しい日常」に寄与することを目指して実施していきます。ぜひご興味がある企業の方、いらっしゃいましたら、注目しておいていただけると助かります。

美園 博信
東京都産業労働局商工部創業支援課課長代理(技術振興担当)

大平 礼
東京都産業労働局商工部創業支援課課技術振興担当