ユースケース創出の支援で勝負する5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム

5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム(以下、5G-SDC)は、ビジネスやユーザーの視点を重視した活動を推進することが特長で、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向けて、ビジネス環境が整いつつある5G/ローカル5Gに着目し、ユースケースの社会浸透、ビジネス領域の拡大、研究開発の促進などを通じて、業界や業種を超えた共創を推進すべく2020年9月に設立された。

事務局は一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)が担い、多種多様なステークホルダー(JEITA非会員を含む企業、地方公共団体等) とのオープンな検討体制が構築されている。

ビジネスやユーザー視点の活動に特化する

大西 5G-SDCは、「5Gはあくまでツールに過ぎず、特にユーザー自らが目的に合わせて主体的に活用を考えることが重要であり、それを促すことが事業創出や市場の活性化に繋がる」という考えに則って設立されました。5GMFが技術標準などを軸にしているのと比較すると、我々の活動は5Gをビジネスとして離陸させるのがミッションです。

長谷川 5GMFにもアプリケーション委員会がありますが、我々はアプリが使われる利用シーンイメージをデザインすることとそのアプリが成立するための社会的プラットフォームを検討することに特化している、と考えていただくとわかりやすいかもしれません。

その意味でも5GMF とは強い連携を図っていきたいと思います。具体的なネットワークの構築、シーズとニーズのマッチング、そしてそのケースをどうやって社会実装するか、といったあたりのノウハウを開発していきたい。そのための場の提供機能がこの5G-SDCの中核ですね。優先順位をつけているわけではありませんが、工場の5G化が最も話題としては盛り上がっていますので、まずはここにフォーカスして検討を進めるのが社会実装の近道かなと考えています。ただしそれ以外の、例えば建築、スポーツ、カメラ利用、遠隔医療などにも徐々に着手していく予定です。当然ですが、最終的には産業界の全分野を視野に入れてます。

WGを機動的に運営

大西 現在は「利活用WG」「普及啓発WG」「調査WG」という3つのWGによる活動を行なっています。ただし、社会環境に合わせて必要とされる取組みを柔軟に考え、各事業者にとって価値のある活動を持続するために、この3つ以外にも5Gの社会浸透フェーズに合わせてWGを機動的に立ち上げ、活性化を図っていく予定です。

例えば利活用WGでは、企業と企業をつなげますという取組みもあれば、情報をシェアしましょう、という取組みもあります。

ビジネスフェーズに入ればコンソーシアム内の活動に閉じる必要はありませんから、個社同士でどんどんビジネスを進めていただきたい。我々はそのきっかけになる機会と場を提供する、というのがこの5G-SDCの役割だと思っています。

5GはDXのための必要条件

大西 DXは単純なデジタル化ではなく、デジタル変換した上で新しい価値をそこからどう導き出せるかが神髄と理解しています。5Gも同じで、5Gを使うことがゴールではなくて、5Gによって新しい価値をどうやって生み出すか、ないしは既存のビジネスモデルをどう置き換えていけるか、というところがポイントになる。単なるネットワークの無線としての代替手段として置き換えますという話だと、5Gを導入する意義はあまりない。そこから新しくどういう価値をつくろうとしていますか、というところがビジネスとして離陸させる一番の要因かなと思っています。5GはDXのための必要条件でしょう。

キラーコンテンツ創出のきっかけを作るためには、ある種の「異業種交流会」が必要だと思っています。これが新しいアイデアを創出する機会になるはずです。

5Gそのものの技術のことをそんなに詳しく知らない事業者、逆にITや5Gに精通した事業者、フィールド保有事業者など、様々なバックボーンを持った方々が議論することで新しい発想につながることを期待しています。

5G-SDC 概要資料(2020年9月)より
5G-SDC 概要資料(2020年9月)より

上図が最初に会員を募集するときに考えていたものになりますが、5Gに関係するステークホルダー、みんなで話し合える場をつくりましょうというのが最初のスタートです。

DXを具体化するユーザーというのは、要するに5Gを導入する人たちです。それはサービス事業者であったり、地方公共団体であったり、フィールドを保有している事業者ですね。フィールドという意味では、工場を持っていらっしゃる事業者の会員が多いのが現状ですが、この他に不動産系、建設系、小売系など様々な分野の方々が5G-SDCに参画しています。

5Gにおける日本のアドバンテージ

長谷川 日本には工場にせよ、環境にせよやはり独自のものがあるので、ここにローカル5Gでどう対応していけるかが直近の課題だと考えています。逆にその課題が解決できればそれが日本ならではのアドバンテージになるはずです。

5Gの普及自体は(世界的にも)実はまだまだだと考えています。ただし端末の普及とリニアに発展していくことははっきりしている。それに比べると産業分野での5Gは、まさにこれからでしょう。特にローカル5Gは世界に先駆けて日本がこれからやっていく技術であったり、制度であったりするはずと思いますので、いかに早く社会実装例を世界向けにアピールしていけるかが重要ですね。総務省さんも色々実証を行なっていますが、あのあたりも「日本らしいケーススタディ」として世界に発信しているものになるはずです。

コンソーシアム内における議論も中心は(5Gよりは)ローカル5Gですね。ただローカル5Gにこだわっているわけではないです。社会実装・産業界への実装を考えるとローカル5Gが使いやすそうだ、というだけの話です。

一方で、まだまだ導入にはハードルが高いのも確かです。特定の会社、もしくは大学とか、いわゆるその経験値、ノウハウを持っているところじゃないと導入できないというところがあるので、そういったところをできるだけわかりやすく、もしくは実際、サービスしたいところとそういう機器を提供できるところのマッチングをこのコンソーシアムの中でいろいろできればと考えています。

「5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム」という名前のとおり、社会デザインしていくにあたって、5Gをどういう形で利活用していくか。その5Gの中にはもちろんローカル5Gもあるよね、というような立て付けかなとは思っています。

企業間連携を促す利活用WG

本山 利活用WGでは、会員同士でいろいろなユースケースなり事例をつくるために、いかに場を提供できるかということを中心に担当しております。

5G-SDC 2021年度事業計画より
5G-SDC 2021年度事業計画より

活動目的としては企業間連携を促すというのが一番大きい。活動内容としては大きく3つありまして、とにかく会員間連携ということで、その促進を図るようにイベントを実施します。そのためには、お互い、どういうニーズを持っているのか、どういうシーズを持っているのかということをきちんと共有しましょうということでデータベースを構築しています。

加えて、実際に会員間の連携、いろいろなユースケースを考えるに際しては、やはり既存でどんなことが行われているのかなということを知らなくてはいけないということもありますし、会員間の連携から幾つか「こんなことができるんじゃないか」「こんなこと、おもしろいんじゃないの」というユースケースが考え得るのではないかなということで、既存のユースケースを考察するだけではなくて、自分たちでユースケースを考えちゃおう、というような、この3つを活動の柱としております。

東急自身は、渋谷を開発の中心としていて、田園都市線、東横線沿線等とも含めた、東京の西南部をフィールドとしておりまして、まずはインフラの充実ということで、先般、住友商事さんと一緒に会社をつくりまして、5Gの基地局をキャリアさんにシェアリングしていただくような事業を今始めたところです。

ただ、まだまだインフラの整備というフェーズですから、その上でどういった利活用ができるのかについては、この5G-SDCと連携しながら、我々がシェアリングするインフラの上で皆様方も含めまして、利活用していただくようなことを東急自身としても考えていきたいなと考えています。

わかりやすさを追求する普及啓発WG

5G-SDC 2021年度事業計画より
5G-SDC 2021年度事業計画より

大西 普及啓発WGの活動目的は、「5G/ローカル5Gの情報を正確・丁寧に伝えてユーザーの理解を促すこと」で、この取り組みが市場拡大に繋がると考えています。先ずは、導入にあたって押さえるべきポイントをわかりやすく解説したガイドブックを発行しました。昨年度は製造現場での利用シーンを想定して工場への導入支援を目的に情報を纏めました。次は建設分野を中心に計画しており、今後さらに対象分野を広げていくつもりです。

また、5G税制や免許申請の周知や理解促進に向けて、5GMFとも連携しながら活動しています。

5G-SDCの活動をもっと多くの方に知っていただくために、事務局のJEITAが主催している展示会「CEATEC」での活動紹介も予定しています。

5G-SDC「ローカル5G入門ガイドブック1.0版」より
5G-SDC「ローカル5G入門ガイドブック1.0版」より

ユースケースを集める調査WG

5G-SDC 2021年度事業計画より
5G-SDC 2021年度事業計画より

大西 公開情報を基に国内外含めて、約80件のユースケースを集めました。これをさらにビジネスや技術的な観点で、詳細が分かるともう少しおもしろい情報になるだろう、という考えで、今は、深掘りの調査をやっています。その結果、個々の事例から横展開できるような要素としてどんなことがあるのかを分析・考察してまとめていくのが調査WGの基本的な活動です。

例えば、スマートファクトリーの事例について言えば、概要から始まり、5Gの活用のポイントや、取組に関わるプレイヤー、ビジネス化の今後の方向性などという構成でまとめていきます。

余談ですが、5Gで進むと言われているハードウェアの仮想化ですが、すべてソフトウェア化して、クラウド側で処理するからハードウェアが要らなくなる、とは考えていません。むしろ仮想化が進んだ時に必要とされるアナログデバイスにはそれなりの精度や新しい機能が必要になるはずで、日本の部品メーカーのその辺りの開発力は世界に誇れるものだと考えています。

独自の情報交流会で盛り上がる

大西 パンデミック(コロナ禍)が世の中のデジタル化を早めたというのは間違いなくあるかなと思っています。5Gはデジタル化をつなぐためのツールとして使われるポジションにあると思っていて、そこから先に生活パターンが変わっていくとか、暮らしが変わる、社会が変わるというところの、今、入り口に来ているんだろうなと思っています。5G-SDCとしては、新しいところをいかにつくり出そう、生み出そうとしている畑違いの人たちが集まって会話する場になっているのが特徴です。相対してのミーティングに限らず、オンラインでのコミュニケーションの方法についても色々開発していきたいと考えています。強調しておきたいのは、決して大企業の集まりではない、中小企業からもたくさんの方が参加していらっしゃる、ということですね。

2020年度 情報交流会 企画テーマ/提案企業/参加企業一覧
2020年度 情報交流会 企画テーマ/提案企業/参加企業一覧

本山 先ほど「利活用WGでは会員間連携を促進するということに注力しております」と申し上げましたけれども、その中の一つの活動としてこの「情報交流会」というのをやっております。これは何かと申し上げますと、大体、WGを開催しますと通常は100名前後の参加者になりますので、先ほど事務局からお話があったように議論というよりは講演会になってしまう。そこで少人数で深く議論する場を設けようということで「情報交流会」を活発に実施してます。

会員企業の中からこんなテーマで皆さんと話したい、というテーマを出していただきまして、それに興味がある会員に集まっていただいて議論します。今年3月の回では、テーマを募集しましたところ、この6つのテーマが提案され、このテーマ毎に10社程度で人数を絞って2~3時間枠で、ざっくばらんにコミュニケーションが取れる場を提供しました。

このような形でいろいろな企業さんが集まることで思わぬユースケースが生まれると考えていて、利活用WGの活動の目玉になりそうな気配です。

5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム 運営委員長 長谷川 史樹 氏
(三菱電機株式会社 開発本部 通信システムエンジニアリングセンター 担当部長)

5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム 運営委員長 長谷川 史樹 氏(三菱電機株式会社 開発本部 通信システムエンジニアリングセンター 担当部長)

5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム 利活用WG 主査 本山 伸一 氏
(東急株式会社 沿線生活創造事業部 ICT事業推進グループ 課長)

5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム 利活用WG 主査 本山 伸一 氏(東急株式会社 沿線生活創造事業部 ICT事業推進グループ 課長)

5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム 事務局 大西 修平 氏
(一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)事業戦略本部 市場創生部長)

5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム 事務局 大西 修平 氏(一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)事業戦略本部 市場創生部長)