5Gがある世界の近未来ビジョン

アプリケーション委員会 委員長 岩浪剛太

アプリケーション開発者にとって5Gで大きく変わるのはデジタルアーキテクチャの拡大だと考えています。これまではPC、スマートフォン、タブレットなどがアプリケーションデベロッパーの活動領域の中心でしたが、5G時代にはあらゆる人工物がその対象となっていくでしょう。かつて世界を変えたWalkmanはハードウェアがユーザーに価値を提示していましたが、デジタルアーキテクチャであるiPod/iPhoneではソフトウェア、とりわけアプリケーションソフトがその価値を提示しています。

デジタルアーキテクチャは入力、出力、演算、記憶などの装置から成り立ちますが、超高速大容量、超大規模多数接続、超低遅延、省電力など十分な性能を持つデジタルネットワークの登場によって、その多様性が飛躍的に拡大します。例えば小さな端末であっても高度な処理がネットワーク越しに行われることによって極めてスマートな役割を果すことができます。また、ネットワーク上のさまざまなところにあるデータや処理をリアルタイムに組み合わせてひとつのアプリケーションを形成することも増えてくるでしょう。このように、5Gの登場はデジタルアーキテクチャのカンブリア大爆発的な拡大を誘発するはずです。

さらに、アプリケーションのタイプも多様化するはずです。これまでの主流であるメッセージをやり取りするタイプ、情報やコンテンツを流通させるタイプも進化しますが、コントロールそのものを価値とするようなタイプも増えてきます。代表例としては自動運転です。アプリケーション側から見て共通の変化はスマート化の要点である使用のフィードバックが飛躍的に多用されることだと思います。人工知能などもそうですが、認知、制御、最適化、自律化を極めて高速に繰り返すイメージです。このようなアプリケーションは、使えば使うほど進化する、という点に最大の特徴があります。

アプリケーション委員会のミッションは、5Gがある世界の近未来ビジョンを描くことです。具体的な活動としては、まず利用シーンワーキング(産業別リサーチ、ユーザー調査、イラスト作成等)とアプリケーションプラットフォームワーキング(固定網・近接通信・OS・CPU、及びデータプラットフォームなどのアプリケーション側から見た開発プラットフォームの整理と議論)を実施しています。また、ユーザー調査は定期的に行い、利用動向の定点観測をしていくつもりです。

産業ごと(verticals)の5Gによるイノベーションというイメージも大切ですが、さらに1レイヤー上の視点に立って、「では、ユーザーの生活や働き方はどう変わるか」を誰にでもわかりやすいいイメージとして提示し、具体的なアプリケーション開発につなげるための橋渡しを実施していきたいと考えています。ユーザーはさまざまな産業が提供するいろいろなアプリケーションを複数同時に使って、今までにない新しいライフスタイルを作るはずなので、今あたらめて“ユーザオリエンテッドであるとはどういうことか”を探求していきます。

5Gモバイルを含むネットワークの進化は万人に開かれたフロンティアです。どのような産業の方にも本業のイノベーションとして関わってきます。なぜならユーザー自身が5Gモバイルネットワークで繋がるユーザーになるからです。5GMFのように規格を策定していくグループの最大の妙味は「近未来が見えること」にあります。それぞれの産業の未来像を技術的な裏付けをベースに予測できる、つまりビジネスを先行して検討できるということです。アプリケーション委員会としては、情報通信分野の産業の方以外の多様な産業の方々からの参加を歓迎しています。