Extreme Flexibilityの実現

ネットワーク委員会 委員長 中尾彰宏

5Gモバイルネットワークのインフラの本質は、“超柔軟性”すなわち“Extreme Flexibility”にあります。それを実現するためにはNetwork Softwarization という言葉がキーワードの一つになります。様々な課題の発生に対して、汎用のハードウェアの中に、 様々なソフトウェアプログラムで随時対応していく技術であると考えてください。すなわちソフトウェアによって柔軟に、そしてすぐに形を変えるインフラが5Gを支えなくてはならない。これが一つの方向性です。

もう一つは、ネットワークスライシング(network slicing)です。ネットワークをデータを配送するためのパイプ(土管)に見立てた場合、従来のネットワークでは複数の種類のデータを1本のパイプで移動しているようなものでした。ネットワークスライシングは、1本のパイプを、データの種類毎に「独立(isolate)」した複数のパイプに仮想的に分割し、かつ、各々のパイプに計算能力やストレージを備えることにより、インテリジェントかつダイナミックに構成を変えることができるパイプに進化させる技術です。求められている要件が全く異なるデータが混じってしまうとネットワークの特性をうまく制御できない。したがって、スライシングにします。スライスとは、上記の「独立した仮想的なパイプ」と同義ですが、技術的には、ネットワーク資源(データ転送能力)、計算資源(データの処理能力)、ストレージ資源(データの貯蔵能力)の塊を輪切りにしたものですから、資源の集合体でもあるし、機能の集合体でもあります。

従来のネットワークは単なるデータ転送が主な役割でしたが、5Gで無線技術 が飛躍的に向上すると、超低遅延の無線通信を活用するためパイプの途中でデータ処理をして高速にフィードバックするようなエッジコンピューティングに期待が高まります。そのため、計算資源やストレージ資源もスライスの一部として考える必要があるのです。スライスは、場合によってはバーティカル(業界別)に分ける、ということも考えられます。技術的には、大容量通信を要するアプリケーションは非常に大きなパケットをマルチキャストで通信するのが適切ですが、一方、センサからは非常に小さなパケットが常時順調に流れているという制御が必要です。このように異なる種類のデータには、異なる独立のスライスを用いた方が制御が容易になります。この考え方では私たちが世界をリードしていると自負しています。

ネットワークを輪切りで使うという考え方は、2002年のプリンストン大学で始めたPlanet Labというプロジェクトが嚆矢ではないかと思いますが、これが米国、欧州、そして我が国の研究開発を経て、進化し、ついに5Gモバイルネットワーク、特に、無線に発展させていこうというアイデアは近年芽生えたものです。無線の性能が非常に上がって有線ネットワークと拮抗はじめていたときには、同じ話が持ち上がるだろう、と直感していました。これがまさにこれから迎えようとしている5Gインフラに他なりません。

詳細はまたこの5GMFサイトで随時ご紹介していきたいと思いますが、ネットワーク委員会としては、1)Network Softwarization(全体のスライスの考え方)、2)モバイルFronthaul/Backhaulのスライスの技術、3)全体を統括するマネジメントの技術、4)Mobile Edge Computing(基地局のすぐ近くでのコンピュータのプログラミング)この4つのフォーカスエリアを早い段階から見極めて研究しています。いずれにしても有線と無線の高度な連携は5Gに置いて最も重要なテーマになります。

そして今、私たちが進めたきたスライスの考え方が本当に世界的に議論される、ちょうどエンジンがかかった状態になりつつあります。これまでは研究室の議論、遠い将来の絵空事に過ぎないと思われていたのですが、いよいよ3GPPが本気でスライスの考え方を世界中のベンダーとオペレーターを招集し真剣に考え始めている時期に差しかかっています。技術的な興味というところでは、今、このような大きな変革の真っ只中にある状態ですから、5GMFネットワーク委員会には、それにリアルタイムで参画できるという魅力があります。世界は変わろうとしています。標準化を視野に入れつつ、この新しい技術を獲得していく高揚感を皆様も手に入れることができるはずです。