ネットワーク委員会委員長代理 吉野修一

すでに回線数が、国内においても世界としても人口を超え、様々な面で社会活動を支えるインフラとなっている移動体通信は、IoTの進展とともに、その利用シーンがさらに拡大し、新しい価値を提供するインフラとなることが期待されています。この期待の中で、5Gの実現に向けた技術の発展・確立と、その普及促進を、具体的な価値の提案とともに推進することが、5GMFの重要なミッションと考えています。

現在、私たちは、スマートフォンの普及とともに、既に、移動体通信とWi-Fiを、場所やアプリケーションに応じて、シームレスに使っています。
5Gでは、このような複数の無線をシームレスに使うだけでなく、利用分野・ユースケースの多様化が進み、無線アクセスに求められる性能の幅が拡大し、一つの無線方式だけですべてを同時に満足することは困難となり、性能の異なる複数の無線アクセスを使い分ける、マルチRATなシステム運用が考えられています。

これは、無線アクセスだけで終わる話ではなく、その多様な無線アクセスと、ネットワークで提供する性能・品質をあわせ、エンド-エンドで提供できる能力を無限大に拡大していく、無線・ネットワーク融合の本格化時代であると思っています。

人の利用だけでなく、IoT利用が進展、普及した時代におけるネットワークの本質は、『多様性』と考えています。5Gでは、超高速、超低遅延、超高収容の性能軸で、技術開発を進めてきていますが、この性能軸においても、利用シーンに応じて、要求レベルは異なります。

例えば、メータリング等では、通常の検針は、ゆっくりでも良い、つまり、時間的な制約は無く、むしろ、無線アクセスは、出来るだけ効率的に広域をカバーできる低速なアクセスが好ましいですが、災害時の機器チェックや、デマンドレスポンスの実現では、ネットワークを含めある程度の時間内で処理を完了するという時間的な制約が求められます。この例での時間的制約は、数秒程度ですが、自動運転やロボットの制御では、数ミリ秒単位の時間的な制約が要求されます。

これは、一つの例ですが、IoTを考えた場合に、重要なことは、利用シーンによって、性能の絶対値の価値が異なるということです。つまり、提供する性能としては、これまでよくあった、「最大値を提供する」だけでなく、「任意の範囲に納める」、しかも、一軸ではなく多様な性能軸において場合を分けて、といったことが意味を持ってくると思っています。

このような環境を提供していくために、無線アクセスとともに、ネットワークの部分でも、技術の進展が必要で、既に利用が始まっているネットワーク機能のソフトウェア化や、ネットワーク仮想化や、ネットワークスライシング技術、エッジコンピューティング技術等が適用され、無線アクセスと同様、速度や遅延等の性能軸の拡大が実現されると考えています。

IoTでの本格活用を見越した5Gでは、このような多様性の提供に向け、異なる性能を提供する複数の無線アクセスと仮想化したネットワーク機能を組み合わせで実現する方向で技術開発が進められてきました。これから、国内でも商用サービスが開始されるわけですが、利用が進むにつれ技術も進展しその能力は拡大していくと想像します。
その広がった可能性により、多様な分野での新たな価値創出や社会イノベーションにつながることでしょう。