次世代のヘテロジニアスネットワークとしての5G
技術委員会 委員長 三瓶政一
世界は5Gで「ワイヤレスがボトルネックだった時代の終焉」を迎えることになります。加えて、遅延時間(latency)がサーバーから端末へ情報伝送での要求としてではなく、情報通信ネットワークの外側に存在する今までつながっていなかったシステム、例えばインダストリー4.0に代表される制御システム、あるいはIoT等に対する遅延時間ということになるでしょう。制御の世界での1msecは決して短くはないレイテンシーですが、そこが第5世代のスタート地点だと思うのです。
もう一つは、ベストエフォートと決別しユーザーオリエンテッドに、というときにクリアすべき課題の克服です。これはある意味「地理」的な問題、すなわち局所エリアで突発的に発生するニーズ等への対応です。それが第5世代の技術的なキーワードの一つであるヘテロジニアスネットワーク(Heterogeneous Network)になります。3GPPではヘテロジニアスネットワークをヘットネット(HetNet)と呼んでいます。ヘットネット自体は第4世代でも存在しますが、それは単に大容量化をサポートしているだけでした。第4世代とのネットワークで見た大きな界面はむしろヘットネットの「中」にあります。ヘットネット自体はマイクロセルをマクロセルの中に入れることによって、マクロセルと特徴の違う部分をサポートしますが、それは「異常なレベルのトラフィック」だったり、あるいは「異常なレベルのレイテンシー」であったりします。「他と違う何かが存在する」ということを地理的に違うと表現しています。その地理的な違いに応じてサブネットの中でそれに適したネットワークを構築するというのが次世代のヘットネットになります。
大容量化のみならず、その他の要素も入れたヘットネットで、要求に応じてNew RAT(RAT:Radio Access Technology )を入れないといけない、あるいは過去のものも新しい機能の無線アクセスに入れる、あるいは極端に大容量のものを入れるという要求条件を実現するための技術の中に、たぶんミリ波伝送技術も入ってきます。ヘットネット自体は技術委員会で対応しますが、遅延時間の議論は無線アクセスだけで閉じるわけにはいきません。例えばクラウドネットワークはユーザーにはネットワークが見えなくても差し支えなく使えますよ、ということを売りにしていますがこれは遅延時間も見えなくなることを意味します。
そこで、現実的にはできるだけ近いところまでエッジサーバー/コントローラを持ってきてレイテンシーを短くするというようなことが必要になり、そこまでいくと今度はネットワークの話に舞い戻ってきます。ネットワーク委員会はその辺りを詰めています。技術委員会としては、ネットワーク委員会と協調しつつ、主にヘットネットを担当していると理解いただいて良いと思います。もう一つの面白い技術としてビームフォーミングがあります。Massive MIMOや100素子以上のアレイアンテナでビーム制御するということもあって、基地局の中心と外側での伝送特性の格差がかなり是正されます。電力を集中して端末まで送りますので地理的格差を解消するエコシステムとして機能するでしょう。
技術委員会に参加される企業にとっては、標準化する技術と(あえて)標準化しない技術の切り分けが大きな課題でしょう。そこではベンダーやオペレータの個別の戦略、オリジナリティが入ってきます。日本はこのあたりが弱かったのではないかと思うのです。具体的には協調(標準化)と競争(非標準化)のデザインをマーケットドリブンで考えていく必要があります。新しいマーケットをどんどん海外に提案していかないと国内対応だけで終わってしまう。5Gが国内対応だけでは単純にマーケットが減ってしまいます。真の意味での技術マーケティングが求められているわけです。収益構造を「ユーザーの数」から「モノの数(=IoT)」に転換していくことで、単価は下がりますが、通信する「モノ」の数が桁違いなので、収益性は向上するはずです。加えて、今までの携帯ビジネスと決定的に異なるのはユーザーグループが力を持つようになるだろう、ということです。要するにユーザーからのリクワイアメント(requirement :要求)が新しいマーケットの存在を指摘するようになるはずです。これまでの携帯ビジネスはこのあたりの必要性はまだ低かったと思いますが、これからは違います。これらも含め、5GMFで最も先端の議論をしていることは間違いないので、たくさんのユーザー企業の声を聴くことができるようになることを期待しています。