5Gの可能性を、社会、産業界と連携して共に追求
技術委員会委員長代理 松永彰
5Gの1つの特徴は、技術の進歩に伴って移動通信システムの能力が拡張されることにより、様々なアプリケーションの可能性が開け、要件のダイナミックレンジが従来のシステムと比較して格段に広くなることです。また、単に要件のダイナミックレンジが広くなるばかりではなく、時間や空間でどんどん変化していく可能性があります。5GMFの技術委員会はこの点に着目し、単なる静的なユースケースではなく、時間や空間の動きを伴う立体的なユースシーンを、主に技術の観点から分析し、どのぐらい要件が変化していくかを明らかにしました。アプリケーション側からの要件の変化に対して、5Gシステムはどのぐらい柔軟に対応できるのか──。それが5G実現のカギを握る考え方ではないかと考えています。
5Gでは、これまでの移動通信システムとは違った世界が開けるのではないかと期待しています。技術的には、無線ネットワークとコアネットワークの役割が変化します。これまでの移動通信システムと比較すると、無線、コア、バックホールなどのネットワークの各構成要素がより緊密に連携して、ネットワーク全体の能力を発揮することが格段に重要になるでしょう。また、通信を提供する業界と、通信を使っていただく業界の関係にも変化が生じると思われます。従来の移動通信システムでは、大まかに言えば、通信業界がネットワークを提供し、各産業はそのネットワークを利用するという関係でした。5Gでは、通信業界と、「バーティカル・プレーヤー」と呼ばれる産業界が連携して、アプリケーションを探求し、その求める要件を満たすネットワークを作ることが大事になるなど、各々の役割が変化してくると考えられます。
5Gは、2020年に実用化することを目標に技術開発や標準化が進められています。それに向けて、多くのことを並行して決め、実証していかなければなりません。電波産業会(ARIB)に、5GMFの前身とも言える「ARIB 2020 and Beyond Ad Hoc」が設立されて5Gについて検討を開始したのは2013年のことで、2020年は7年先のことでした。しかし、すでに2020年まで4年を切っている現在、議論を整理して、実用化を目指さなければなりません。
一方で、5Gに対する期待は、今や一つの「社会現象」と呼んでもよいほどに高まっていると感じています。3GのIMT2000の時も、その後の3.9G、4GのLTEやLTE-Advancedなどでももちろん期待は高かったのですが、5Gでは通信業界以外の人が注目している度合いが格段に高まっています。
これは言い方を変えると、5Gはそれまでの移動通信システムと比べて、社会的な比重が高まるであろうということです。この点が、4Gまでの移動通信システムと最も大きく違うところかもしれません。公共インフラや社会資本に如何に5Gが組み入れられるかを考えるにあたり、産官学の力を結集した5GMFが貢献できる部分が大いにあると考えています。
5Gの時代に具現化を求められる世界は、通信ネットワークだけではなく、人工知能(AI)やディープラーニング、周辺のアプリケーションと連携して構築していく必要があります。そのとき、5Gとその他のアプリケーション間の連携を、1つ1つ実際に確かめることが求められるのです。
5Gで新たに実現が期待される典型的なユース・シナリオの1つとして、「低遅延、高信頼」が挙げられます。しかし、一言で「低遅延」と言っても、その内容は千差万別で、必要とされる低遅延の性格を吟味しなければなりません。対戦型ゲームで対戦する時の「低遅延」と、遠隔地の建設機器をリモコンで操作する場合の「低遅延」、そしてConnected Carのアプリケーションで要求される「低遅延」は、同じ「低遅延」でも、ネットワークの構成や遅延に対する要求が異なるでしょう。一括して「低遅延」を実現したから、どんなユースケースでも使えますと言うわけではなく、どういうユースケースでどんなシステムが求められるかを技術的に吟味しなければなりません。
これまで、5GMFの技術委員会では、オペレーターやベンダー等、通信業界に身を置く技術に詳しい方が中心になって活動してきました。しかし、技術とユースケースが密接に関連する5Gでは、立て付けを変える必要があると感じています。今後、検討に参加していただく方の幅を広げ、様々な産業界の人に5Gについて関心を持ってもらうことが必要でしょう。5Gで何ができて何が変わるのかを、通信業界とそれ以外の産業界の人とで共同で考えていくことが求められています。
より具体的には、技術委員会と致しましては、バーティカル・プレーヤーを初めとした様々な分野の方に対して、5Gで具体的に「何が出来るか」について、技術面の可能性を発信し、関心を持っていただくことによって5Gの可能性を共に追求し、ひいては、より良い社会の形成に貢献していきたいと考えています。