5G総合実証試験スタート後の5GMF

5GMFは、総務省の5G総合実証試験を全面的にバックアップしつつも、5GMF自身を強化する方向でその活動のスコープをむしろ広げつつある。前回に引き続き佐藤孝平5GMF事務局長と奥村幸彦氏(5GMF総合実証試験推進グループリーダ、NTTドコモ5G推進室主5G方式研究グループリーダ)が語る。

■実証実験開始後でも5GMFへの参加には様々なメリットがある。

奥村幸彦氏(5GMF総合実証試験推進グループリーダ、NTTドコモ5G推進室主5G方式研究グループリーダ)

奥村 5GMFの推進グループのスコープもいよいよ変わって来ます。国内で行われる主要な実証試験のフレームワークはそもそも3カ年計画です。つまり、2年目、3年目にいろいろ進化した内容、あるいは新しい内容が足されていく可能性があるのでそちらの情報を共有していきます。加えて、国内の5GMF以外のグローバルで同じような5GMFの団体が立ち上がっていて、それらがどんな実証試験をやっているかという情報を集めて、それをこの5GMFメンバーの皆様と共有しつつ、それをヒントにして、さらに新しいテーマや現状のテーマをより進化させたものを2年目、3年目でもやっていけるようにする。このような側方支援が重要なミッションの一つになります。加えて、韓国などを含むアジア地域を中心に実証試験の連携推進を加速させることも含め、国内で行われる実証試験の成果を国内外にアピールして行きます。実証試験をより拡大していくために必要な情報を集めて共有、さらに具体的には実証試験の連携を国外の人たちと実行していく試験のサポート、プロモーションの強化などに推進グループはスコープを定めて活動していく予定です。

■加速するIoTの普及への対応

佐藤孝平5GMF事務局長

佐藤 “IoT”は現時点では積極的に5GのプラットフォームでIoTをやろうというよりは、今ある技術、例えばLTEやLPWA(Low Power Wide Area)などの直近の技術を使ってやっていこうという動きのほうが大きいのが実情です。したがって、5GMFとしては、5Gのネットワークができた段階で、IoTをブロードバンド化する、ということがミッションになるだろうと考えています。現時点では、今ある技術、LTEや無線LAN、LPWAがIoTに使われるでしょうから、その協力・支援もしますが、次のフェーズでブロードバンド化する検討も行います。ここで5Gの本領が発揮できるはずですし、同時にIoTの使い勝手を劇的に変えてしまうポテンシャルを秘めていると考えています。

奥村 今お配りした2ページ目を見ていただくと2ページ目のスライドの2G、3G、4Gと来て、5Gの一番下にmMTCという、large number of IoT communicationsと書いてありますけれども、IoTは当然、佐藤さんがおっしゃいましたように、既に4Gの世代でどんどんいろいろなアプリケーションが増えて、IoTに属する……。セルラーネットワークでも非常にリッチなコンテンツを扱うユースケースにも対応しますし、少ない情報を低コストな端末でも実現できるようなインターフェースにも対応するという形で、5Gの無線アクセスというのがよりフレキシブルかつスケーラブルになるようにしようとしているというふうに思っていただいてよいでしょう。自然体で4Gでどんどん拡大していっているIoTがさらに5Gでも拡大を続けると。全体的に見るとIoT端末、人が持ち歩く端末以外の通信モジュールなどが、とにかく数と種類がどんどん増えていく状況は5G世代にも続きますので、そういうマッシブターミナル、マシンタイプコミュニケーションというような言い方で超多数接続が使用できるようなことも5Gのネットワークの能力向上のターゲットであると認識しています。

■5Gの自動運転の普及への関与

奥村 自動車を対象としたユースケースは自動運転だけを考えているわけではなくて、例えば“コネクテッドカー”という言い方がありますよね。あれは、車が常に無線リンクでネットワークとつながっていて、車の中でさまざまなコンテンツ--普通、自分の家の中でしか見られなかったようなコンテンツを車でも再現できる、というようなことが謳われています。これは高速大容量としての5Gを使うことが前提になっています。一方、車の運転に関する制御には低遅延、高信頼という5Gの能力を活かせるし、IoTの車というのも何かあるかもしれません、となると、それは車の中にいろいろなセンサが付いているのをネットワークに情報を送るのに、それぞれ必要な情報を送るためのIoTデバイスというものが、もしかしたら将来付くのかもしれません、と。だから、5Gの能力をいろいろなユースケースごとに活かすことができて、それは自動車を対象としてそれぞれの切り口で活かす先の可能性があるというふうにとらえるべきかなと。そういう中で自動車というのは確かに非常にホットなターゲットにはなっていますね。

佐藤 我々でできるものと、かなり先のものとを段階的に実現していくイメージを持っています。目標設定によって違ってくるとは思いますが、コネクテッドカーは幅広い守備範囲にはなるでしょうが、比較的すぐに実装できそうなものが多いのではないかと考えています。ただし、自動運転全部というふうになると、これは結構ハードルが高いでしょう。したがって自動車業界の方々と綿密な連携が必要になると思います。

奥村 すべてをセルラーでやろうと考えているわけではないというのもまた5Gの特徴でしょうね。例えば、今、市販車で自律制御でレーダーを持っていて、いざぶつかろうとすると自律制御で自分で判断してブレーキを踏んだりとかハンドルを切ったりとかしますよね。そういう機能を全部捨ててセルラーでやるということではないですね。それは組み合わせだと思っていまして、本当に高レスポンスですぐに反応しなくてはいけないところは自律制御のほうが絶対有利でしょう。一方で、セルラーでできることは、例えばワンブロック先の交差点にこのまま突っ込んでいくと反対側から来る車とぶつかる可能性が非常に高まるのでスピードをちょっとコントロールするとか、ルーティングを変えるとか、そういう予測型のものをやって、安全性をより高い方向に振るというのにはセルラーは向いています。ですから、イベントが起こるところに対しての時間ですとか、要求されるレスポンスなどをうまく自律制御とセルラーを使った制御を棲み分けかつ組み合わせてやっていくというのが今後のやり方になっていくでしょう。

■5GMFの4つの委員会の今と今後

佐藤 技術委員会の現在の活動は周波数の話に集約さます。具体的にどの周波数でどのようなサービスをするか、干渉や共存の問題、あるいは実際に使う周波数はどこを推奨するか、など、かなり商用導入を見据えた議論を活発に行っています。企画委員会は5GMFの将来の戦略や広報・宣伝をどうしていくべきかという議論が中心です。また、ネットワーク委員会は、実証実験においてスライシング技術をどう検証するかなどの具体的な検討を行っています。

奥村 今の5GMFの総合実証試験推進グループがプロモーションやサポートするための対象としている国内の実証試験の営みは、総務省の技術試験のフレームワークだけでなく、5GMFメンバーが独自に行っているトライアルなどがまだまだあるんですね。それは弊社もやっていますし、KDDIさんも、ソフトバンクさんもやっていて、そういうものに関しても5GMFとしてサポートしていく、あるいは情報発信したりしていくと。そこもちゃんと継続していきますということはスコープに入れています。そのあたりの動きはアプリケーション委員会が積極的に動いています。
ドコモも関連するいろいろなパートナー様と実験をやっていますが、総務省様の中のフレームワークで実行しようとしているもののさらに外側に同じくらいの規模・数のパートナー様との実験などを控えているのです。

■日本の5Gの進捗

佐藤 欧州は、5Gの初期検討の立ち上がりが早かったので、いろいろなプロジェクトが既にパラレルに走っています。日本はそういう意味で言うと、約1年遅れくらいでしょうか。ただ、各オペレーターさんの動きは非常に早かったと思います。しかも国家プロジェクトとしての実証実験が約2年前から始まっていますので、民間レベルではほぼ同じくらいのレベルに到達でているかなと思っています。ご存じと思いますが、フォーラムとしては、実証実験に関する具体的な活動を、約1年前からスタートしました。高速移動体(鉄道、バス)への高精細映像配信の実証試験には韓国などは高い関心を持っているようで、「いつから参加できるのか?」という問い合わせは前から来ています。欧州側との共同実証試験も検討しましたが、欧州側は、テーマごとにプロジェクトが分かれていて、なかなか連携できるスキームや体制ができなかったため、そういう協力の仕方は実現していません。我々としては、ヨーロッパの5G PPP、韓国の5Gフォーラム及び中国のIMT-2020PG、この辺の5G関連団体との情報・意見交換を今後とも継続していきたいと考えております。