ローカル5Gも強力な武器だけれど、基本は「使えるものは全部使う」にある

阪神電気鉄道の中村光則氏は、地域BWAのスペシャリストだが、彼の射程はローカル5Gを含む全ての電波の「共同利用」にフォーカスしている。様々な設備をオープン化し共同利用することで、豊かな電波環境を全員が享受できるようになる。地域BWAでの実績から構想する将来の5G-BWA/ローカル5Gの未来を語っていただいた。

──中村さんは地域BWAのスペシャリスト、ですよね

私が無線の世界にどっぷり浸かり始めたのは、2006年のいわゆるBWA(Broadband Wireless Access)立上げからです。そのとき、フジクラという電線メーカーに在籍していました。そこから2016年までの10年間に全国BWAとは別に地域BWAができるのですが、最初はWiMAXを想定していた地域BWAがLTE/4Gに乗り換えていく話が浮上しつつも、地域BWAの制度そのものを維持・発展させていくというところにフジクラでの10年間を費やしました。フジクラがその3年くらい前に地域WiMAXから撤退しようとしていた頃、阪神電鉄から「地域BWA、一緒にやろう」と声がかかり、2016年に転職することになりました。

実は地域BWAは今、普及ベースに乗ってきていて、その上で、2018年からはローカル5Gの制度化とその制度の高度化あるいは改正ですとか、さらに普及促進の活動に関わっています。基本は阪神電鉄という会社に籍を置いていますが、同時に、地域BWA推進協議会 http://www.chiiki-bwa.jp を通じたニュートラルな普及促進活動にも積極的に関わっている、というところです。

──地域BWAとローカル5Gの接点を教えてください

地域BWAは全国では110事業者を超えています。自治体の普及化率という意味では1700ある自治体で今300を超えたところなので、2割弱に過ぎないと思われるかもしれませんが、私たちが設定したターゲット人口からの普及率(カバー率)をみると、実は53%にまで増えました。うまく回り始めた理由は、設備投資の回収をその狭いエリアで図る、という施策を放棄したからですね。ご存じのように、4Gにしても5Gにしても、コアの設備といわゆる基地局の無線側の設備、これが組み合わさって初めて機能する形ですので、その両方を持つというのは、安くなってきたとはいえ結構しんどい。

実は、4Gに切り替わるあたりで、立派なコア設備を阪神電鉄自身が作りました。100万人規模のユーザーが収容可能な、キャリアさんのコア設備と同等のものです。これを京阪神のエリアで使っていくと同時に、クラウドベースで、4Gで地域BWAをやりたいという地域の事業者(多くはケーブルテレビ会社)にサブスクリプションで提供する、というモデルを完成させました。

地域の事業者が「BWAをやろう」と考えた時に、基地局設備は個々に構築していただくことにはなるのですが、コア設備はすべてリモート+サブスクで使えばいいので、その組み合わせであれば、投資回収が容易になります。これを当該地域の自治体向けサービス、あるいは一般向けのインターネット固定無線サービスとして提供していただくわけです。容量無制限の固定料金設定というケースが多いのですが、それがビジネスとして投資回収できるモデルとして回るという形が証明できました。クラウド-コアの組み合わせがポイントになるわけです。110事業者のうちの約6割は実は阪神のコアを使っているお客さんなんです。特に基地局の数を増やしてたくさんのお客さんに使ってもらおうと頑張る地域BWA事業者さんは成功していると思います。

この「クラウド-コアと各地域BWA事業者さんが個別に設置する基地局」という組み合わせは、当然ローカル5Gでも有効なはず、と考えていて、地域BWAの成功事例をローカル5Gにも拡張していきたいと考えているわけです。

ローカル5Gの場合には、個々の工場あるいは企業向けに、ローカル-コアみたいなものと基地局のセットを保守するような形で、これはいわゆる完全にBtoBになるわけですが、ユーザー企業がオンプレミスで設置するローカル5Gとは一味違うサービスを提供するプランが考えられる一方、一般のお客さま向け、あるいは自治体と一緒に地域の“まちづくり”としてローカル5Gを使う場合は、全域とは言いませんけれど、局所局所でもう少し“まちづくり”にあった広いエリアでも使っていこうというような考え方の時に、ローカル5GとBWAを重ね合わせて使う方法が有効になるとみています。BWAはそんなにスピード出ませんが、いうまでもなくローカル5Gは狭いエリアにおける超高速・大容量・超低遅延・多数同時接続が実現可能です。この特徴を地域BWAで確立したビジネスモデルの上で適用させていく、ということを考えています。

地域BWAで4Gのサービスをしている中では、もうBtoBとBtoCが一緒なんですね。法人で契約する場合も個人で契約する場合も同じ料金ですし。一方、工場向けや産業用途、工場の中の機械向けにIoTとして通信サービスを提供しよう、ということになるとローカル5Gの出番です。ただ実際にはローカルコアやミニコアを求めるケースはそれほど多くなく、大半はクラウド-コアでいいケースが想定されるので、実はローカル5GもBとCの区別が最終的には曖昧になるんじゃないかなと想定してます。

また現在の地域BWAの利用者の8割強は固定ルーターを使っているとみています。いわゆる固定無線ブロードバンドですね。一般・法人にかかわらず、オフィスや自宅に固定のルーターを置いて、外線は4G-BWAを使います。家の中とかオフィスの中ではWi-Fi に変換する。これが使い放題なわけですね、月額2,000円か3,000円で。そういう環境があります。その一方で、 2割弱のところでは、いわゆるモバイルルーターとして利用されてます。BWAの4GのSIMを挿し替え、格安スマホのデュアルSIMのもう片方に挿すことで、エリア内は4G-BWAで定額・無制限でデータ通信できる、そういうスマホの使い方が今出てきているんです。実はこれが、ローカル5Gを普及させる時の一つの使い方の例だと思ってるんですね。

──コアを共通化するメリットは大きそうですね

先ほど申し上げた全国110の事業者の約6割は同じコアで使ってますから(いわゆる)ローミングができるんです。モバイルルーターとかスマートフォンであれば、そのエリアではお客さんは確かに行き来できるような形になっている。加えて2025年頃から4G-BWAの設備更新が徐々に始まっていくはずですから、そのタイミングでBWAの5G化が進む、と考えています。コアを共通化しておくとその時メリットが享受しやすい。

ここにRAN(Radio Access Network、無線アクセスネットワーク)のオープン化、いわゆるOpen RANの潮流が拍車をかけていくことになるはずです。最初は海外機器ベンダーさんとの関わりがどうしても深くなるかもしれないんですけど、最終的に4キャリアさんのエリア作りとしてOpen RANの設備が普通に入ってくるのでないかと想定していて、そうなってくるとローカル5Gや5G-BWA向けが、そのまま横に流れてくる、あるいは同じように扱えるような形になるだろうと思っているんですね。

BWAがまさにそうだったんです。全国BWAのUQさんとか、Wireless City Planningというソフトバンク系の会社さんの全国エリア展開が進む中で、そこのいわゆる基地局ベンダーさんであったり、あるいはそこで使われる端末が同じ帯域の地域BWAにも流用できる、流れてくるというような形になって、そういうところでコストメリットが出てきているのもありますから、Open RANやキャリアさんのそういった活動に期待したいと思っていますし、その上で、マルチベンダーでできる限りやっていく。特定のベンダーのコアや基地局と心中するような考え方を捨てれば、割と未来は明るいと思います。

──免許不要帯も仲間

私はローカル5GとかBWAという言葉よりは ”地域無線”や“地域目線”にこだわりたい。だとすると当然その中には免許不要帯も視野に入ってくるわけです。ここもうまく使いたい。現実には今、電波の割当て等でぶつかってるところも多いんですが、免許不要帯で5Gを動かす、という発想も否定する必要はないと思うんですよ。適切なものを全部使えばいいんです。そういう意味では “波のプロデュース力(りょく)”、つまり全体を見ながら、ビジネスも意識しつつ、制度の改正にも目配りし、うまく未来を描ける力が重要になってきますね。そこでは地域BWAとローカル5Gの共同利用(組合せ)、という考え方がポイントになるでしょうね。

なぜこういう話が生まれたかというのにはもう一つ背景があって、冒頭にも言いましたように、地域BWAとローカル5Gを私はエリアで重ね合わせるようにして使えたらいいな、という話をしました。地域BWAは2.5GHz帯ですからけっこう電波が飛びます。ローカル5GはSub6でもそんなに飛ばなくて、数百m からせいぜい半径で1㎞くらい飛べばいいくらいです。ミリ波になれば100mとか200m行くか行かないかの世界です。ですから、豊富な電波資源を適材適所で使えばいいだけ、だと思うんですね。

これは“自己土地”というよりは、電波が届く範囲--そんなに広くないけど、でも電波の届く範囲なので、もう既に自己土地を越えて、いわゆる他者土地という発想があるんですね。

私の未来のイメージというのは、といってもそんなに遠くはないかもしれませんけど、やっぱり、特に自治体さんと話をする中では、スマートシティみたいなところが特にイメージが湧くかなと思っているんですけど、自分の土地じゃなくて、やはり街としてさまざまなところでローカル5Gを活かしていこうということであれば、人が使うケースもあるし、まちの一角の中でのIoTだって当然ありますね。そういったようなところで使おうと思うと、やっぱり自己土地じゃ、もう整理できなくなる。逆に電波自体は被っても構わないわけですが、基本は土地別ではなく電波別、という考え方になるでしょうね。そういったより“まちづくり”のために、そんなに広くないけど、ローカル5Gを活かしていくというような考え方が普通になると思いますよ。それともう一つは、今の価格だと(ローカル5G関連設備は)高いんですけど、設備の共同利用(共用)を前提とすれば、話が全く変わってくる。2025年くらいには広域的な使い方が生まれてきて、2030年に向けて育っていくという形になるんじゃないのかなというのが私のイメージしているビジョンといいますか、未来だと思っています。こうなってくると端末の低廉化も進むと思うんですよね。

──ミリ波の展望は?

今どうしてもSub6の人気が高い。特に4.8GHzから4.9GHzの100MHz幅が人気です。条件がよければ見通し外でも1㎞くらい電波が飛びます。そしてもう一つはいわゆるスタンドアローン(SA)利用ですね。5Gだけでシステムが構成できる。ただし100MHzの幅しかない。100MHzの幅でできるスピード感とか低遅延でも同時接続数でもいいんですけど、それは今、地域BWAがLTE/4Gと同じ20MHzの幅ですから、もちろんBWAから比べると5倍も増えてはいますが、でも、5倍までなんですね。まず、そこをきちんと見ておかなければいけないというのがSub6の使い方です。

BWAからは5倍だと。BWAはよく飛ぶ、Sub6はちょっと狭いけど、そこそこ使える。ところが、Beyond 5G ということになるとちょっと話が変わってきます。 IoTだけではなくIoS(Internet of Sense、人の感覚)なんていう言い方も出現していますが、バイタルデータをリアルタイムでモニタリングするようになってくると、帯域自体は全く足りなくなってきます。そうなると、ローカル5Gのミリ波の出番です。900 MHzあるんですね。ダントツに容量が違います。

現時点でミリ波の人気が低いのは、電波が飛ばないというのもあるんですけど、一つにはNSAが基本になっているからです。ただし2025年頃までにはこのNSAの使いにくさはかなり解消されてくるはずです。そうなるとミリ波の広帯域が威力を発揮する。

もう一つは、端末ですね。ミリ波の端末はそんなに多くありませんけど、キャリアさんが頑張ってくれることで、ミリ波の端末の数が増えて、価格も値ごろ感が出てくる。2025年あたりがひとつのポイントなんだろうなと思っているんですけど、そういう条件が整ってきたらローカル5GはSub6よりもむしろミリ波が主流になる可能性すらありますね。

電波って意外と見通しがあれば飛んでいくというのもわかっていて、そういうところで壁があるところを反射等でどう持っていくかというのは、それも技術が進んでいけば数年先には解消手法が色々と出てくると思います。10GHz帯以上は、降雨減衰、降雪減衰があると言われています。10GHzよりも低ければほとんど無視していい、なんですけど、ミリ波帯は確かに影響を受けます。ですが、例えば、今、変調方式でいえば64QAMとか256QAMというのが一般的ですが、雨が降ると変調度が下がっていくんですね。変調度が落ちればスピードが落ちるだけで、使えないわけではない。マージン設計が必要なところはマージンを高くとって設計していけばいいだけの話であって、決して、全然だめというわけでもなんでもないんですね。

いずれにしても2025年以降、2030年頃の私のイメージでは、主力の2.5GHz帯の5G-BWAが街をカバーする中で、スマートシティのようなところでは、特にもう少し狭いエリアで、高容量で必要なところにSub6のローカル5Gがオーバーレイして使われ、さらに、局所的に容量が必要なところにはミリ波が広帯域で400MHz幅でも800MHz幅でも重なっていく。これを上手に組み合わせて投資回収のバランスを見ていく。Wi-Fi 6や7もありです。とにかく「全部を使っていく」という発想です。

『ローカル5Gも強力な武器だけれど、基本は「使えるものは全部使う」にある』
阪神電気鉄道株式会社
情報・通信事業本部 情報・通信統括部 課長
中村光則 氏