GEAR5.0でマテリアル分野の中核拠点校としてトップギアで走る

鈴鹿高専では全国の高専に先駆けて産学官協働研究室を立ち上げ、国立高専機構の進めるGEAR5.0プロジェクトの推進を図っている。「GEAR5.0」は、「未来技術の社会実装教育の高度化」を指し、地域密着型、課題解決型、社会実装型など、従来の高専としての特徴を生かしながら、企業や自治体、大学などと連携を持ち、新たな人材育成を行うプログラム。鈴鹿高専はこのGEAR5.0におけるマテリアル分野の中核拠点校として活発な活動を繰り広げている。

──具体的にはどんな共同研究がありますか?

鈴鹿高専の共同研究推進センターはGEAR5.0で走る複数のプロジェクトの受け皿になる組織です。鈴鹿高専が所有する教育研究機能、知的資源、施設設備、これまで蓄積されてきた技術等をベースに、地域と密着した共同研究プロジェクトを流動的、機動的に推進し、地域の産業と社会に貢献することが当センターの使命です。

『GEAR5.0でマテリアル分野の中核拠点校としてトップギアで走る』

全国高専の教職員、学生、企業技術者が参画可能な高専ネットワーク援用産学官協働研究チームとして「K-Team」を開設しています。まず「K-CIRCUIT 」はK-Team の開設に必要な規則や運営ノウハウをパッケージ化したもの、さらに「K-Drive」は、社会ニーズに応じることができる人財と設備とをマッチングさせる仕組みです。人財や設備を抽出し、研究の進捗に応じてオンタイムな支援を受けられるデータベースシステムです。これで、一企業対一教員、一企業対一高専という古い産学連携態勢を脱却し、企業対K-Driveという新しい産学官連携スタイルを構築しよう、と考えているわけです。

──具体的な事例をいくつかご紹介いただけますか?

まずミズノテクニクス株式会社と進めている「複合材料研究室」があります。これは、ミズノテクニクス株式会社の研究者2名と本校の機械工学科、材料工学科の教員4名により構成された研究室で、スポーツ用具および産業用材料(例:水素自動車の水素タンク)に用いる樹脂にCNT(Carbon Nanotube)を分散させた高強度CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)の研究に取り組んでいます。機械工学科は疲労強度特性にCNTが与える影響について評価,材料工学科はCNTの分散性の観察と基礎物性評価を担当しています。

また、東京化成工業株式会社とは「AIフロー合成機開発室」を運営しています。東京化成さんからの研究員3 名と本校の生物応用化学科、電子情報工学科、機械工学科の教員5 名により構成された研究室でして「フロー合成機と分析装置を連結し、コンピュータ制御により、多品種の化学品の合成反応条件を比較的短時間で自動的に最適化する小型汎用装置の開発」を進めています。生物応用化学科、機械工学科がフロー合成機と分析装置の連結部分、電子情報工学科がコンピュータ制御の部分を担当しています。

さらに、小山高専さんと進めているプロジェクトには「環境エネルギー発電技術開発研究室」があって、西松建設株式会社と、新環境発電技術によるCO2排出削減を目指した新規フィールドアプリケーションの提案・開発、およびその技術の有効性についての検証から、環境エネルギーを電気エネルギーに変換する新型発電体の開発、安価で高機能な有機無機ハイブリッド材料の開発とそれを用いた機能性材料の開発などを目的としたプロジェクトです。

また、大分高専さんとは、株式会社ハイドロネクストとの協力で「ハイドロネクスト水素協働研究室」を立ち上げていて、次世代水素透過金属膜の研究開発と実装製品の検証を行い、効率的な超高純度水素精製技術の開発、水素透過膜の耐久性評価法の確立、コンビナート副生ガスに対応可能な技術の選定などを目的としたプロジェクトになっています。

直近では、株式会社MonotaRO(モノタロウ)と「MonotaRO 品質評価研究室」を7月6日に設置 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000173.000075419.html しました。販売しているプライベートブランド商品の性能及び品質を評価し、MonotaROの社員がその商品の科学的根拠の理解を深めることにより顧客満足度の高い商品開発を進めることを一つの目的としています。

──K-Teamにおける先生の役割は?

公務分担的には、学校の研究の取りまとめの方での副責任者として研究副主事を担当しています。学内全体の研究のことを運営補助したりとか、事務のことをしたりということもありますが、K—Teamとしては萬古焼のワイヤレスIoTをやってました。これ少し詳しくご説明しましょうか。

株式会社華月の研究員4名と本校の機械工学科、電子情報工学科、生物応用化学科、材料工学科、教育研究支援センターの教職員7名が密に連携をして「調理器材料開発・省力機械開発研究室」を立ち上げていました。熱伝導性の高い発熱体の素材開発、陶器の接合工法の確立、原材料・製品の品質検査技術の確立などが目的です。萬古焼(ばんこやき)は、ペタライト(葉長石)を使用した陶磁器ですね。三重県四日市市の重要な地場産業です。日本国内の土鍋(どなべ)の大半は萬古焼だと思います。

これ実は総務省主催の「高専ワイヤレスIoTコンテスト2021(WiCON2021)」で表彰された案件です。萬古焼にアタッチメントを取り付けて、スマホアプリで火加減とかユーザーに通知するというものです。

土鍋IoTシステム図
土鍋IoTシステム図

◎研究内容 (1)土鍋周辺のハードウェア開発
実際に、自分たちでこの金属笛を萬古焼に取り付けて、鳴る音によって鍋状態を見る。オートセンサーでピーッと鳴るやつをとって、

土台アタッチメント・小型コンピュータ・金属笛からなるハードウエア部
土台アタッチメント・小型コンピュータ・金属笛からなるハードウエア部

◎研究内容 (2)音響解析と無線通信
これはちょっと温度で測ったんですけど、周波数をとって、

土鍋蒸気音のFFT解析
土鍋蒸気音のFFT解析
1合土鍋 ピー音安定時の周波数特性
1合土鍋 ピー音安定時の周波数特性

◎BLE 通信により周波数値をアプリ側に送信
これ、アタッチメントですね。実際のアタッチメントで、これは自分たちで自作したアプリです。まず、周波数をとって波の状態を測ると。

BLE通信の様子
BLE通信の様子

◎研究内容 (3)料理ナビゲーションアプリ開発
こういったところで自分たちで「土NAVI」というアプリをつくって、彼なんですけど、こういうアプリを使って、要は土NAVIの白ごはんをつくりたいと言えば、こういうふうに白ご飯を選ぶと。

作成したアプリのユーザーインターフェース
作成したアプリのユーザーインターフェース

◎開発したアプリ画面

加熱ナビゲーション画面
加熱ナビゲーション画面

◎実証実験
先ほどの産学官協働研究室の華月さんの社長さんとか話し合ったりして、こういうふうな感じでいろいろフィードバックをもらって。

株式会社華月へ訪問しシステム説明を行っている様子
株式会社華月へ訪問しシステム説明を行っている様子

◎実証実験 運用中の様子

協力者がシステムを利用している様子
協力者がシステムを利用している様子

◎今後の課題

なお、共同研究推進センター担当としての私の業務の中心は現在はエイベックス株式会社と進めている「AVEX未来創造研究室」がメインですね。切削研削加工技術の追求と自動化やデジタル技術導入によるスマートファクトリー実現の研究開発が目的です。精密切削研削の更なる加工条件追及により、高精度や難削材の省人加工を実現させ、自社内で容易に獲得や向上が困難なデジタル技術を用いた自動化や効率化を支える新たな導入に向けた研究・開発等を推進しています。いわゆる“ものづくりDX”ということになってくるはずで、検査などで出力されるデータが膨大な量になる、あるいは人の動きのデータも欲しい、さらにそれらを統合してクラウドで処理したい、という話になるはずなので、この辺りでローカル5Gのお世話になる可能性があるだろうな、と考えていますが、具体的な取り組みはこれからですね。

そもそも私の専門は “モノを壊さない検査”、いわゆる非破壊検査です。安全・安心な社会を実現するためには必要不可欠な技術です.主に電磁気現象を利用した非破壊検査の高度化に関する研究に取り組んでいます。なのでエイベックスさんの例がわかりやすいのですが、リアルタイムのモニタリングですごい膨大な量でデータを処理しながらAI判断とか、そういうところはBeyond 5Gを視野に入れたローカル5Gじゃないと無理かなと思っています。

──水素社会実現に向けた社会インフラ構築

さらにこういう取り組みがあります。こういった分野がありまして、今、エネルギー・環境分野の佐世保高専が取り組んでいるやつ、それは水素社会の実現を目指そうというのでやっている取り組みでして、ちょうどやっているやつがこれなんですけど、
◎高専ワイヤレスIoT コンテスト2022(Wicon2022 ) ただし、不採択

遠隔監視セルフ水素ステーションの実現に向けて
遠隔監視セルフ水素ステーションの実現に向けて

これがまさしくさっき私がご説明させていただいた5G活用かなと個人的には思っているんですけど、例えば、今、水素ステーション、インフラ設備がいろいろありまして、その中で、実はご存じのように水素は水素脆化を起こして金属を脆くすると。そういったところになかなかどういうふうに……。今、保安業務とかあるんですけど、それこそ実はリアルタイムでこういったセンサを--私、センサも専門なので、センサとかアプリをつけてリアルタイムでローカル5Gに取り付けてモニタリングしたいというのが今ちょっとあります。

◎1.今回取り組む課題 1.1 背景 水素ステーションの点検業務
センサがあって、ローカル5Gでつないでリアルタイムで配管とかの亀裂をモニタリングしたいんです。水素ステーションは1台の建設費が3.3億円程度です。なので保安業務や運用コストはうんと下げたいわけです。エネルギー自体の取り組みとしては、佐世保高専の先生は、水素を通さない膜をつくっています。そうすると配管が脆くなることはなかなかない。あるいは新しい鋼材として炭素鋼を用いてコストを削減するという一つの流れがこのプロジェクトになっています。

◎水素社会実現に向けた社会インフラ構築のための研究開発と人材育成(佐世保高専准教授 西口廣志)

『GEAR5.0でマテリアル分野の中核拠点校としてトップギアで走る』

具体的にこういた感じでいろいろな高専の先生が活躍しています。環境都市を専門とする先生もいらっしゃるので社会科学系の知見もとり入れて新しい社会を実現しようと考えています。

──鈴鹿高専の魅力

最近はどの高専でも多くなりましたが、鈴鹿高専は昔から創造活動プロジェクトに取り組んでいます。学生の放課後は普通クラブ活動になるのですが、鈴鹿高専はちょっと違います。もちろん普通の部活もありますが、むしろ「プロジェクト活動」にのめり込む学生が多い。ロボットコンテスト、プログラミングコンテスト、エコカープロジェクトとか、そういったテーマでプロジェクト制を組んで、創造活動を育む教育を行っているというのが鈴鹿高専の特徴だと思います。いうまでもなく放課後は教育課程外になのですが、実はそこが結構チャレンジの場所になっているのですね。放課後プロジェクトで重要なのは“学生が主体”ということです。鈴鹿サーキットがそばにあるから、ということも含め、学生の好奇心がプロジェクトを回していくエンジンになっている。これは鈴鹿高専の特徴だと思いますね。で、そういう学生がベンチャー立ち上げたい、という時の相談に乗ったりしてます。実はこれが一番楽しいですね。

加えて、私が昨年サポートしたものに高専が初めて実施したガールズコンテストがあります。高専GCONです。・全国の国公私立高等専門学校の本科・専攻科に在籍する女子学生がチームを作って、SDGsを中心としたさまざまな社会課題の解決に向けた技術開発、アイデアを広く募集するものです。鈴鹿高専の女子学生の割合は30%を超えているのですが、実はこのコンテストで電子情報工学科の学生5名のチーム「SUZUKA DRIVERs」が「三重県の名産品を知って観光名所を駆け巡る地方創生スマホゲームアプリの開発 ~MIE IKONI CIRCUIT~」を提案し、鈴鹿高専が最優秀賞をとった。のびのびやっているということの良い例かなと思いますね。

高専GCONは女子高専生の実力を世の中に発信するために高専機構が開催し、参加学生がSDGsの理念を理解し、日頃の研究や学習がSDGsの観点から社会課題にどう貢献できるか考え、未来の研究者・技術者として成長することが期待されているプログラムですが、これに限らず、例えばリオ・オリンピックの陸上男子走り高跳びに出場した本校卒業生の衛藤昂(えとう・たかし)選手のような人材もいますし、みんなのびのび楽しく過ごしてますよ。

私の個人的興味で今取り組んでいるのも「ものすごく柔らかい伊勢うどんをどこまで伸ばせるか」の研究です(笑)。工学的にCAEシミュレーションして、どこまで伸ばせるかを試してみようと思ってます。ギネス記録達成を目指してます。

右 鈴鹿工業高等専門学校 電子情報工学科 准教授 板谷  年也 氏、左  鈴鹿工業高等専門学校

右 鈴鹿工業高等専門学校 電子情報工学科 准教授 板谷 年也 氏
左 鈴鹿工業高等専門学校 専攻科総合イノベーション工学専攻 長田 大空 氏