FA(ファクトリーオートメーション)の厳しい要求水準に到達しつつあるローカル5G

ローカル5Gの有力なユースケースの一つに「工場での利用」があるが、それがFAになった瞬間に要求水準は桁違いになる。IT業界の“ベストエフォート”では太刀打ちできない極めて精緻な通信制御能力・遅延対策が必要とされるからだ。それまでは使い物にならなかった無線系もローカル5Gでようやく利用に資するレベルに達する希望が見えてきた、と三菱電機(名古屋製作所)は判断したようだ。FAの厳しい要求水準における5G活用術について聞いた。

― ローカル5G検証作業の実際をご説明いただけますか

『FA(ファクトリーオートメーション)の厳しい要求水準に到達しつつあるローカル5G』

別所 こちらが実際にこのラボ(三菱電機名古屋製作所内)に設置して実証した設備です。こちらの写真は、リリース15のミリ波の 28GHz帯、NSAというタイプの型のものを設定し、これを使って検証を行ってまいりました。弊社の場合、FA機器に接続するため、FA機器との接続に5Gを活用し、実力値を確認しています。

GOT(Graphic Operation Terminal)、これは従来、操作盤に取り付けていたハードウェア的なスイッチ、ランプなどをソフトウェア的に実装し、モニタ画面上でこれらの表示・操作が可能なタッチパネル付の表示器です。のGOTとシーケンサを5G経由で接続し、GOTからそのシーケンサの情報を監視するという検証です。NC専用ユニットを遠隔からNC表示器でも監視するというような検証も実施しています。

シーケンサは、“工場にある機械を順番に制御していくためのプログラムが入っている装置”です。

『FA(ファクトリーオートメーション)の厳しい要求水準に到達しつつあるローカル5G』

言うまでもなく、5Gか有線かで実際には遅延レベルは異なるのですが、表示に関しては、人間が見る限りでは、有線の代替としてきちんと使えそうだ、と言うことがわかりました。通常、GOTは据え付けておくのが一般的ですが、これがローカル5Gで持ち運びできるようになると、工場のオペレーションが劇的に変わる可能性があります。そういうことを目的にした使い方を検証しているとお考えください。

― 発見できた課題は?

岩山 これはいずれも表示器という、監視用に使っているものなので、最終的には人間が見るものですから、多少の遅れがあっても人の目にはわからないので、ここでの問題というのはそれほどなかったという認識です。

ただし、ご承知のように、工場の中はさまざまな装置がありまして、例えばGOTとかNC表示器が、これを持ち歩くと言うようなことを想定した場合、いろいろな装置の陰になったり、いろいろな金属に反射したり、あとは移動したりとかありますが、そのときに電波の乱れですとか、電波がモノの陰に隠れて届かなくなる、そういうケースがかなり多くあると考えています。

実際はこのシーケンサと他のFAの機器がいろいろつながっているので、そのような多数の制御機器と接続して使いたいとは考えているのですけれども、そちらのほうはまだ今後検証していかなければいけないことが多いですね。5Gのみでなく、実際のお客様へのご提案では有線と5Gをうまく組み合わせたソリューションになるでしょうね。

― モータ制御と遠隔支援の実際はいかがですか?

『FA(ファクトリーオートメーション)の厳しい要求水準に到達しつつあるローカル5G』

岩山 左側にあるのはモータ制御ですが、これは弊社の機器で言いますと、インバータという機器を使用しています。インバータを操作するGOTからシーケンサを経由しましてインバータを制御し、モータ回転数の変更やモータの起動/停止を行います。右側は、スマートグラスを使って映像を遠隔から監視する実証です。この図では一人しか見えていませんが、もう一人、パソコン側にいる保守員と遠隔で話をしながら作業支援をします。

まず、左側のモータ制御なんですけれども、インバータという装置はFAの機器の中でも比較的遅延の要求が厳しくないものなので、ある程度、制御には使えそうですね。ただ、やはり遅延が少し大きくなるので、どれだけその遅延が許容されるかというところは、実際のユースケースによって変わります。一般論として展開しにくいのですが、我々の目標としては10msから100msくらいの遅延レベルではないかと想定しています。

― e-F@ctoryとは

楠原 弊社はFA技術とIT技術を連携させることで開発・生産・保守の全般にわたるトータルコストを削減し、生産性と品質の向上、安全性とセキュリティの担保、そして省エネを実現し、お客様の改善活動を継続して支援しよう、と言う思想でありソリューションである「e-F@ctory」を推進してきました。よく引き合いに出されるインダストリー4.0は、ドイツ政府や研究機関が「産官学連携体制」を構築して取り組むプロジェクトとして2011年に立ち上がった構想ですが、私たちの「e-F@ctory」は2003年頃から始めております。

また、FA機器は高い性能だけでなく、耐久性も求められ、厳しい条件で耐久テスト・信頼性テストを繰り返しています。その辺りも弊社の製品がお客様に支持される要因と思っています。あとは、やはりサービス体制ですね、無論「e-F@ctory」に限らずではありますが、弊社の迅速な対応は支持されていると感じますね。

また、シーケンサに限らず、NC、サーボ、ロボット等、いろいろな機種を開発しておりますので、トータルソリューションの提案が可能です。この辺りも一つの強みだと考えています。

― CC-Link IE TSN が必要とする要求水準とは

『FA(ファクトリーオートメーション)の厳しい要求水準に到達しつつあるローカル5G』

岩山 弊社のネットワーク規格に、CC-Link IE TSNというものがあります。これは、IEC(国際電気標準会議:International Electrotechnical Commission)で標準化されています。このCC-Link IE TSNという産業用の通信ネットワークを使いまして、先ほどありましたシーケンサと、センサのようなI/O機器を接続して、この制御に使えるかどうかといったようなところを検証しています。

CC-Linkはイーサネット通信以前のシリアル通信時代からスタートしています。その後、CC-Link IEというものでイーサネットケーブルを使った通信を採用しまして、現在は、CC-Link IE TSNという、さらに時間的にきっちりとタイミング制御ができるものにアップデートされています。CC-Link IE TSN では当然IP(インターネットプロトコル)通信もカバーしていますから、これらを混在させて通信できるという規格に少しずつ発展しています。

CC-Link IE TSNはClass AとClass Bの2種類用意しております。Class Bと書いているほうはハードウェア実装しているので非常に速い。Class Aはソフトウェアで実装していますので、ハードウェア実装よりは多少遅い。そういう2つのタイプを用意しております。

― このプロトコルでローカル5Gもうまく活用できますか?

岩山 5Gでは3つの大きなアピールポイントがあります。一つは大容量、一つは低遅延、もう一つは同時多数接続ですね。そのうち低遅延については、一応、5Gの規格として謳っているのが無線区間の遅延が1msだと思いますが、使い方によって、例えば5Gの周波数帯としてこの4.8GHz帯というのは低いほうの周波数帯を使っていると、実は遅延は少し大きくなる。なので、これを使うと十分な遅延性能が得られず、CC-Link IE TSNというのは、通常は有線を使うことを想定して規格が決まっているので、それを満足するような低遅延性能というのは出ていないのが実情です。

ミリ波では無線区間の遅延というのが1msと規定されているのですけれども、CC-Link IE TSNの規格上、最小の通信周期というのが31.25μsでして、ちょっとケタが違うんです。大きいところでは16msとか32msくらいまで幅を持たせることができるんですけれども、やはり非常に小さい周期で動かそうとすると、そこには適用できないといったような課題はあります。

FAの世界は、ほぼ有線でつながっているというのが当たり前なので、CC-Linkもそこに合わせた規格になっていますから、そこに無線が入ろうとすると遅延が大きくなって、タクトタイム(一つの製品を作るのに必要な時間)が遅くなってくる、あるいはそもそも動かないとか、そういうことが起きる可能性は十分ありますね。

非常に低遅延が求められるモーション制御などはやはり有線のままにした方が良いのかと考えています。リモートで行うとか、移動を伴う局面では無線を使えばいい。その組み合わせ方などにベンダー毎の特徴が出てくるようになるのだと思いますが、弊社はその辺りも含め、全てのFA機器を扱っているのでトータルでご提案できるところが強みです。

― 直近のローカル5G関連の活動内容を教えてください

岩山 ミリ波とSub6の違いを把握しようと考えています。リリース16を織り込んで機能検証したかったのですけれども、これがいろいろコロナとかの影響もあって、これの基地局とか端末のメーカーからの製品化が少し遅れていまして、まだできていないのですね。その影響でFAにおける適用の研究開発が1年から2年近く遅れそうかなという気がしております。

― 最後に「5G OPEN INNOVATION Lab」をご紹介いただけますか

岩山 こちらは、主に社外のお客様に使ってもらうことを前提としたラボです。5Gのシステムを他社に貸し出している、ということですね。もちろん共同でやることもありますし、貸し出して、その会社が検証するというようなことにもご利用いただいています。極めてオープンです(笑)。もちろん研究所ですので、自主的な研究も行っています。この研究所の前身は三菱の照明工場だったんですね。神奈川県の大船にあるんですけど、交通の便もいいですし、立地条件としては非常にいいところではないかなと思っています。

わたくしども三菱電機名古屋製作所は各種FA機器を製造している現場なので、私たちとしてはこの「5G OPEN INNOVATION Lab」においては、FAに関連した5G関連アプリケーションの共同開発のようなところまで持っていけたら楽しいだろうな、と思っています。ぜひお気軽にお声がけください。

[取材先]
三菱電機株式会社 名古屋製作所 開発部 情報技術企画グループ
岩山 哲治 氏、別所 雄三 氏、楠原 崇史 氏