フラットな関係を横展開し、生活者視点で5Gの普及に貢献する

「デジタル、イノベーション、5G、どれも私とは関係ない」そう考えている女性たちのほうが、むしろその独特の視点から新しいアイデアを作ることができる場合がある。生活の中で感じている地域課題に改めて向き合い、その課題を解決して行く時にどんなテクノロジーが活用できるのだろうということを学ぶ6カ月が「5G・IoTデザインガールプロジェクト」だ。5GそしてBeyond 5Gという状況を前にして、デザインガールの卒業生がそれを学んで、実際どのような活動を実践しているのかをご紹介する。
卒業生の佐久間萌里佳氏(incri株式会社/SOMPO Light Vortex 株式会社)、清水優衣氏(incri株式会社/日本オラクル株式会社)と、デザインガールを統括する鬼澤美穂氏(incri株式会社/日本オラクル株式会社)にお話しをお伺いした。

デザインガールでの6カ月

──「デザインガール」に参加された感想をお願いします

佐久間 仕事をしていく中では、あまり通信や5Gについて深く考える機会もなくて、最初は特に5GやIoTに知識や思い入れがあるわけでもなく、たまたまデザインガールというプロジェクトに女性が各企業1名だけ参加できるということで上司から声をかけてもらい、いろいろな企業から、しかもいろいろな業種の方々が集まるらしいということだけに魅力を感じて参加してみたんです。それぞれ業種や知識もバラバラな、いろいろな企業のいろいろな年齢層の女性が集まって意見を出し合って、6ヶ月間で一つのソリューションを考えていくんですが、同じ会社の中での議論では絶対に出てこないような考え方とか発想を知ることができて、ちょっとの驚きと、大きな学びになっていたと思っています。

──それまでは通信事業者とも接点はなかったわけですね?

佐久間 そうですね。その後も学びは続いているんですけど、通信ってあまりにも身近すぎるというか、当たり前すぎて、どんなふうに誰が何を考えているかまで気にしたことがなかったんです。今、5Gの時代が来ていて、多数同時接続ができるとか、低遅延だとか、知っている単語はあったものの、例えばローカル5Gって何がローカルなのか考えたこともなかったので(笑)、一定の範囲の場所でしか繋げないけれど、それを応用したら何ができるかとか、5Gを自分ごととして捉えることはなかったです。デザインガールに参加して、通信事業者以外の人にも5Gを自分ごととして考えてもらいたいというメッセージがあることをまず知りました。

今は、デザインガールを卒業して、Beyond 5Gのリーダーズフォーラム にも参加させていただいているんですけれど、5Gの更にその先を今から考えていくことが、日本の未来のためにとても重要なことなんだと気づけたことが、私にとっては大きいです。今まで通信って、当たり前に使っていたものでしたが、自分が当事者として考えていかないといけないことなんだと知れたことは、とても大切な学びで、通信に対する捉え方が大きく変わりました。

リーダーズフォーラムのほうでは、具体的にまだ発信はしていないんですけど、「こんなこと、できたらいいね」みたいな世界観の話をしています。例えばデジタルとは無縁に思える日本の伝統文化をBeyond 5Gの世界で残していく、継承していくようなことが、通信の世界が進展していく中で、できたらいいね、という話を議論している最中です。

『フラットな関係を横展開し、生活者視点で5Gの普及に貢献する』
佐久間 萌里佳氏(左)  清水 優衣氏(右)

薩摩川内市の大綱引にチャレンジ

──鹿児島で実施したリーダーズフォーラムが面白かった、とお聞きしました

清水 鹿児島の薩摩川内市の職員の方にリーダーズフォーラムでお話をいただいたときに、地域でずっと受け継がれているお祭りに大綱引(おおつなひき)という、ほんとに大きい綱をみんなで練り上げて引くという伝統的なお祭りがあるとお聞きしました。ただ、その継承者が少なくなっていて、この文化を守れないかもしれない、という課題があるとお聞きしまして、その話が私たちのチームではけっこうみんな印象に残っていて、何か5GあるいはBeyond 5Gを活用して、その課題を解決できないか、というようなディスカッションをしました。

──具体的にどんな企画になりそうですか。

清水 メタバース空間で参加者を--まず綱の練り上げのところから参加者を募って、メタバース空間で綱も練り上げるんだけれど、それと同時に憑依型ロボットが実際のリアルの綱も同じ形で練り上げる。バーチャル上とリアルの薩摩川内市内のどこかと綱が両方にできあがっていくというのがまず第一弾です。それで実際に綱引きも、バーチャル上での参加とリアルでの参加と両方できて、もちろん憑依型ロボットもそこにも参加できて、その熱気とか盛り上がった熱さとか、綱の感触とか、その他もろもろ全部の感覚的なものをBeyond 5Gの世界と、離れた地点にいてもリアルに体験できるという世界をつくる、というのが一番主なところです。

それ以外にも、綱の練り上げに参加したりすることで、それは地域の綱を練り上げるという仕事に参加しているので、何かしらのインセンティブがついて、また他の地域文化、薩摩川内市以外の地域の文化の行事に参加するときに、そのインセンティブが使える--何か買えたりするとか、循環する何かインセンティブ設計も、Beyond 5Gの世界の中でできたらいいよね、みたいな話をしていたりします。さらに、特定の地域だけではなくて、いろいろな地域で応用可能な知見をいっぱいつくって行けたらいいな、とも考えています。

佐久間 日本各地にある、もしかしたら地元の方しか知らないような、そしてどんどん人口が減っていて廃れつつあるような文化も、通信の世界が進化していくことで、逆に残していくための手段になるんじゃないか、みたいな視点で考えています。

──佐久間さんの普段の仕事が、リーダーズフォーラムの中で活かせるようなことはありますか

佐久間 インセンティブ設計などのところは、私も知見が活かせるか--そこまで言うとちょっと怪しいですけど(笑)、と思っていて、ブロックチェーンを使ったインセンティブの循環みたいなことは本業でも考えたりすることがあるので、もしかしたら少し役に立つかなとは思います。また、今の世の中のサービス設計において、通信は、なくてはならないインフラのようなものだと思いますので、デザインガールや、Beyond 5Gリーダーズフォーラムで得られた知識や柔軟な考え方は、本業で新規事業を考えていく際にも、還元できる部分がたくさんあると思っています。

──最終的に地域と、そして自分の会社にも貢献できれば、ということですね。

清水 そうですね、最終的には地域の課題解決というか、地域の現場の方々と同じ目線でそこの課題を解決していくというところにフィードバックしていきたいです。

鬼澤 デザインガールに参加した彼女たちがすごいのは、フラットな関係構築をつくる“つなぎ役”になるというところなんです。たまたまお二人ともリーダーズフォーラムで同じグループですけど、そこにはいろいろな業界の「はじめまして」の方たちがいる。建前ばかりのディスカッションだと、本気で未来をつくる議論にエンジンがかかるのに時間がかかる。そこで彼女たちが、まず潤滑油になる。さらに現場目線で等身大の気づきをどんどん言うということに、その存在価値があることを学んでいるので、空気に飲み込まれることなく、ちゃんと気づきをフラットな視点で言えるわけです。変に背伸びしたり、肩肘はったりしない等身大の発言と姿勢が周りの方たちをフラットにしていく。年齢、業界、仕事、生活の区別なく議論できるわけです。

デザインガールで学んだフラットな関係と生活者視点

『フラットな関係を横展開し、生活者視点で5Gの普及に貢献する』
佐久間 萌里佳氏

──「フラットな関係」がキーワードですね。

佐久間 デザインガールのほうも6人チームでやっていたんですけど、最初はメンバーの年齢は全く知らないまま進めていました。さんざん議論して、飲み会もして、仲良くなってから、20代が2人、30代が2人、40代が2人だったというのがわかったんですが、美魔女みたいな人がいて、自分より年下だと思ってたのに年上だった(笑)、みたいなこともあったりと、本当に年齢も役職も、上下関係ない関係を築けていたと思います。卒業後も会っていますが、いまだに役職は知りません(笑)。偉そうだなとか気にしないで、ばんばん発言して、フラットに議論しながら進めていく土台がデザインガールで出来上がっていたので、リーダーズフォーラムでは40代チームに入っていて、私は40代じゃないのでメンバーが年上なのは確定なんですけど、いろいろな意見を出し合って何かをつくっていかなきゃいけない場面では、そんなこと忖度している場合じゃないというのも知っていたので、全く気にせず、どんどん意見を言っています。たぶん、メンバーの中でも年が違ったりとか役職が違ったりとかあるんでしょうけど、そこはリーダーズの方々にもフラットであってほしいなと思っているので、名刺の肩書きは偉そうな感じではあったんですが、みんなにそれぞれのあだ名をつけて、呼び合ったりしています。「ダイちゃん、どう思いますか」というふうに振ったりしながら、自分の意見も言いつつ、いろいろな人の意見が出るような場をつくりたいと思いながら進めていたりします。

──“生活者視点”は盲点だった気がしますね。

清水 そうですね、ディスカッションのときも、まさにそこを意識していて、結局、「じゃ、私たちの生活にどんないいことがあるの?」とか「どう影響があるの?」という視点を意識しています。Beyond 5Gだと2030年やその先の話になるので、今後、私に子どもが生まれたとして、子どもたちの世代にどういういいことがあるの?とか、そういう視点で意見を言うようにすることは、けっこう心がけていますね。

デザインガールのプログラムに関わる前は、5GやBeyond 5Gという単語自体が難しいし、そもそも自分と関係ないもの、というような感覚がなんとなくあって、私が意見を言っていいのか、そもそも私に関わる話なのかという感覚だったんですけど、デザインガールを経ると、自分自身に関係があるものだという感覚が生まれるので、その中で専門家としての意見というわけではなく、生活者目線から私たちが話し合いに参加することに価値があるのかな、意義があるのかなというふうに思って、今リーダーズフォーラムにも参加しています。実際、たぶん、他の40代の参加者の各企業の代表の方たちもそこに価値を感じてもらっているのかなと。

『フラットな関係を横展開し、生活者視点で5Gの普及に貢献する』
清水 優衣氏

──皆さんが納得しないと、その先、議論が進まない?

清水 ええ、けっこう言いますね(笑)。

佐久間 言います(笑)。「わからないです、それ」みたいな。

清水 デザインガールに参加すると、そのままでいいんだ、そのままの生活者としての意見に価値があるんだ、みたいな気持ちになれる、という感じが強いかもしれないです。ただ、学ぶことはたくさんあって、いろいろ5GやBeyond 5Gについて学ばせていただきながら、それを自分で解釈しながら、生活に落とし込んでいく、みたいな感覚が強いです。

佐久間 2030年もそうですよね。どっちかというと、デザインガール出身の人たちが2030年を考えるときには、どんな世界になったらいいかという未来への希望を先に考えるんですけど、技術や通信をよくご存じの方ほど、今、こういう技術があるから、2030年はこういうことができるんじゃないか、という、今を始点にした考え方をされる方が多いのかなとは感じていて。

生活者目線というか、純粋に、大好きな自分の子どもが、これからの日本で生きていくとしたら、このまま進んでいくと、ちょっと大変なんじゃないかなという思いがあり…。
デザインガールもBeyond 5Gリーダーズフォーラムも、参加するまでは、2030年とか、だれかが何とかしてくれるでしょ、くらいに思っていて、あまり自分ごとではなかったのですが、うちの子が大人になったときの日本をリアルに想像すると怖くなってきて、子どもの幸せのためにも、真剣に私も考えないといけないという気持ちになっています。

だからこそ、「2030年はこうであったらいいな」をもっと発信しないといけない、誰かに任せきりでは変な方向にいっちゃうかもしれない、誰かがやってくれるではダメで、自分も考えなくては、と思い始めています。

母性のような部分で、自分事化しやすいのかもしれません。具体的ではなくとも、「日本は昔はパワーがあったけど、5Gになってきた中でのルール決めでは、そんなに立場が強くないらしい」と聞くととても残念に思うし、「通信の世界でちゃんと力を発揮していかないと、もし戦争が起こったら、何もつながらない国になるかもしれない」と聞くと、恐ろしいと感じるし、聞いたことの感情面を膨らす共感力を強く持っていることは、2030年やその先の世界を検討するときに、強みになると思います。

妄想力で勝負する

『フラットな関係を横展開し、生活者視点で5Gの普及に貢献する』
清水 優衣氏

──清水さんはIT業界出身ですよね?

清水 そうですね。周りは男性が圧倒的に多くて、その中で、どちらかいうとそっちに思考を寄せていかなきゃいけないという考えでずっとやっていたんですね。プログラミング自体が論理的な作業ということもありますから。

鬼澤 清水さんは勤務先でもめちゃ売れっ子なんです。UX、UIデザイナーとして、生活者視点、ユーザー視点が求められるわけですが、そこができるんです。勤務先の中のいろんなプロジェクトに引っ張りだこみたいですよ。

清水 プロダクトをつくるときの最初の設計段階からで、基本的にユーザー目線で、ユーザー中心に考えるというのは、すごく意識してはいますね。

鬼澤 しかも、数少ない情報の中で妄想しまくって。

清水 そう、妄想しますね(笑)、こういうことなんじゃないか、みたいな。

鬼澤 要件出揃ってからUXに落とし込むのではなく、1要素、2要素からいろいろなことを調べながらも、妄想しているんですね。正解のない領域の新規事業を創っていく中での彼女の姿勢、すごい大事だなと思います。ちなみに、佐久間さんは、その素晴らしい行動力とフットワークの軽さで転職最短記録を持っています(笑)。別の企業に所属しているときにデザインガールプログラムに参加されて、そこでどんどんモチベーションがアップして、参加中に今の会社に転職しちゃった。

佐久間 元々いた企業は風土も硬めで、上下関係が明確な体育会系だったんですけど(笑)、デザインガールの世界は年や役職も含め上下関係が全くなく、デザインガールのときはフラットに好きな意見を言っていいんだ、というのを知ってしまったら、その時間が楽しすぎて(笑)。

デザインガールの講義では、「あなたたちの共感力が世界を救うんだよ」というメッセージが散りばめられているんです。「これがかわいそうだから直したい」とか、「これがおもしろそうだから、こういう世界になったらいい」とか、そういう意見をどんどん言うことが日本のためになるんだよ、って言われたら、なんだか、自分を押し殺している場合じゃないな、って思って。それまで割と淡々と生きていたんですけど、デザインガールに参加したら、もっと自分で考えて自分から発信しなきゃ、自分の意見を言ったら意外とおもしろいかも、って思えるようになって。講義の中でふと耳に入った「やりたいことがあるんだったら、一つの企業の枠に囚われる必要はないよ」という一言が私には刺さってしまって、「私、何やりたいんだっけ」というのを改めて考えたんです。

デザインガールは1つのソリューションを考えるプロジェクトとしてやっていたんですけど、自分の感性のところでもちょっとした変化があって、「自分は何がしたいのか」「自分はこの想いをもって、社会にどんなふうに貢献していけるか」みたいなことを考え直したら、転職しようかなと。半年間のプログラムだったんですけど、3〜4カ月くらい経ったときには、次の仕事が決まっていました(笑)。

経済界のバックアップが付き始めた

──デザインガールの活動の今後の展望は?

鬼澤 デジタル社会において5GやIoTなどのデジタル技術の概要を知りその効果や進化に期待すること、一人ひとりの等身大の気づきが課題解決や未来創りにつながるということ、特にこの2点をデザインガールの学びの中で受け取る方がすごく多いです。また、一つの企業で一つの仕事をしていると、外とフラットにつながって等身大の意見を発信することが重要なのだという気づきを、普段の仕事の中ではなかなか見つけにくい方が多いんじゃないかと思うんですね。

デザインガールの活動が有意義だな、と思うのはそんなところです。プログラムを卒業して会社に戻っても転職しても、そのマインドセットや共感スキルを発揮できるパワーがあるので、それぞれの分野でそれぞれの活躍ができると思うんです。これが東京だけではなく地域でも広がっていくといいなと考えています。鹿児島、京都、富山などでは地域版を開催し、春には新潟でも開催予定です。組織を超えた横のつながりと共感力が地域活性化の起爆剤につながるかもしれないと各地域で期待してくださっていることを実感しています。トライアル1日開催から始まった鹿児島は、今では地域の経済界がバックアップしてくれていて、いろいろな企業が鹿児島のデザインガールを応援してくれ数百人の卒業生が出ている状態にきています。この輪をさらに広げてどんどん他地域に横展開し、目指せ全地域展開!目指せ生活者視点の人と人をつなぐプロ集団!、が今後のデザインガールの展望です。

『フラットな関係を横展開し、生活者視点で5Gの普及に貢献する』
鬼澤 美穂氏

[取材先]
デザインガール
鬼澤 美穂氏、清水 優衣氏、佐久間 萌里佳氏