共感を中心に幅広い層を巻き込む新生CIAJ —多くの方に5Gを理解していただくためのハンドブックを刊行
「共感」「つなぐ」「巻き込む」新生CIAJの誕生
1948年(昭和23年)4月に電話網構築のために創設された「有線通信機械工業会」は今や「一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)」として6Gも射程に入れた活動を実施している。そしてその守備範囲は今や情報通信業界を飛び越え、一般企業との共感をデザインしようとするところまで拡大している。そのきっかけとなるであろうハンドブック刊行と今後のCIAJの戦略を聞いた。
CIAJと5G/Beyond 5Gシステム委員会
林 正式名称は「一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会」です。情報通信技術利活用の一層の促進を目的に、情報通信ネットワークに関わるすべての産業の健全な発展を図る目的で1948年(昭和23年)4月「有線通信機械工業会」として創立され、1958年5月に「有線通信機械工業会」から「通信機械工業会」に改称、2002年5月には「通信機械工業会」から「情報通信ネットワーク産業協会」に改称、そして2009年10月には「一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会」として法人化されました。日本におけるネットワーク、つまり電話ですね。電話ネットワークを全力で構築しようということからスタートし、その後の通信関連産業の広がりに応じて拡大してきた、という経緯があります。今年は設立75周年を迎えます。情報通信ネットワークの各種知見を活用し、さまざまな産業をつなぎ、社会課題の解決に寄与したいと考えています。いわゆる電機・電子4団体の一つとして位置付けられていて、現時点では正会員と賛助会員と名誉友好団体を合わせて165社、ICT系のベンダー中心に通信キャリアにもご参加いただいています。
理事会の下に運営幹事会や各種部会があり、その中核を担っているのが26の委員会・研究会・協議会です。5G/Beyond 5Gシステム委員会もその内の一つになるわけですが、この委員会、そして保険医療福祉ICT推進委員会、コネクテッド・カー利活用推進委員会、トラフィックデータ活用委員会、この4つが2020年から2021年にかけて設立された比較的新しい委員会になります。5G/Beyond 5Gシステム委員会はそれ以前からワーキンググループという形で活動していたものが委員会に昇格した、という関係です。
「5G/Beyond 5Gシステム委員会」には現在11の企業が参加されています。5Gとその先、Beyond 5Gとか6Gの可能性あるいはそれら共通課題の調査・分析、それから方策の検討などを有識者やステークホルダーを交えて議論して、最新の技術・ビジネス動向等も把握するということが目的になっています。パブリックコメントを作るなど様々なPR活動も実施しています。最終的な目的は5Gシステムの提供及び利活用したいと考える企業や他業種の参入の促進ですね。遵守すべき法令とか秩序の維持とか、一般にはなじみの薄い事項もたくさんあるわけでして、それらをかみ砕いて、拠り所となるような議論をして、コミュニティとしての活動をしていく。技術者以外の人たちもどんどん巻き込んで行きたいと考えています。
2022年5月31日の定時社員総会および理事会において、会長に森川博之氏(東京大学教授)が就任しました。
「新生CIAJ」として、森川会長の考え方の中心にある、「共感」「つなぐ」「巻き込む」という思想はぴったり当てはまります。会長を中心によりクリエイティブな活動の輪を広げて行きたいと思っています。
5G/Beyond 5Gシステム委員会の具体的な動き
大屋 5G/Beyond 5Gシステム委員会は2020年に発足しまして、今年3年目を迎えたのですが、実はそれ以前からにCIAJの中に3つの“ワーキンググループ”という、委員会とはちょっとまた違う、いろいろな人が集まって意見を言い合ったり、いろいろな有識者の人を呼んで未来の話を語るとか、そういう枠組みがあった時代がありまして、そのときの3つのワーキンググループが最終的に今の5G/Beyond 5Gシステム委員会に集まってきたという経緯があります。
一つは、副委員長の辻さんがワーキンググループをまとめられていた新世代ネットワークワーキンググループ。そこは今も5Gで非常に活躍されている東大の中尾彰宏先生を有識者としてネットワークのあり方、仮想化に関する議論をしていました。それから私が中心に手がけていたIPTVに関する放送と通信の融合ワーキンググループ、そしてもう一つは、モバイル環境調査ワーキンググループというのがありまして、この3つが2017年から少しずつ統合されていて、最終的に2020年に今の委員会の形になったという背景があります。
標準化や技術詳細に重きを置くのではなく、他でやっていることとはちょっと違う特色を出していこうよ、という方針です。世の中でいろいろなシーズを持っているメーカーさんやSlerさんがいらっしゃいますが、一方で、それをどういうふうに使ったらいいかというニーズを持っている人たちもいらっしゃるわけでして、その橋渡しをやれるような組織体のニーズがありそう、ということでスタートを切りました。中心の活動は技術動向やマーケット動向の調査とベンダーとユーザーの両者を交えた勉強会ですね。さらに、シーズとニーズをうまくマッチングできずに困っている企業、あるいは5Gに関する理解が進んでいない幅広い層も対象にしたいと考えています。
小林 弊社は他のメンバーさんの会社から比べると極めて小さい会社なので、いわゆる持っている情報だとか、集められる情報というのも非常に限られていたりするんですね。なので、こういった委員会活動というのは、我々にとって非常に学びの場でもあるし、それとビジネスチャンスに直結する、そんな場にもなっていまして、実際に、この委員会を通じて、我々の製品を実際にお使いいただくことができていたりするので、そういった意味では非常に、ローカル5Gに関して非常に知見を得る場、チャンスを得る場、そういった場になっているのかなということも実感しています。
林 5Gがどんどん普及すると現在5G普及で奔走しているベンダーにいろんなフィードバックが返ってくるはずです。逆に言えば、現状はネットワーク先行でユーザーがついてきていない。だとしたらそれはもしかしたらネットワークがどうのこうじゃなくて、アプリケーションとか、魅力的なサービス、あるいは一種のエコシステムのような協調スキームが構築できていないことの裏返しなわけです。技術以外のところで社会を良くするためにはネットワーク、ソリューション、あるいは業界横断の仕組みを検討する必要がある、ということですね。
未来を感じられるストーリーを提供したい
辻 もともとワーキンググループというものがあった時代は、どちらかというと、少々反体制気味なところがあったんですが(笑)、議論の枠をかっちり固めない会議体が必要だと思ったんです。通信に関する議論は、例えばすぐにヒューマンインターフェースの部分に議論が伸びる、という具合に、色々なイシューがどんどん追加されやすい性質があると思うんです。
細分化しすぎたフォーラムをむしろつなぐような横断的なフォーラムが必要、という考えもありました。そして中心にあるのは通信ではなく“人”だと思ったんです。今回のハンドブックもそれを体現していて「俺たち知ってるからいいよね」じゃだめだと思ったんです。なので他のところが出していらっしゃる類似するものとはちょっと違ったテイストになったらいいなと思いながら進めてきました。そういう匂いを少しでも感じ取っていただけると非常にありがたいです。
今、若い人たちがどうも未来に対して懐疑的になっている様子が非常に気になっていて、多少空想を交えても構わないので、未来を感じられるためのストーリーを作りたい、そしてそれは決して絵空事ではないことを提示したかったんです。結果的に通信の未来に希望を感じていただけるものになったと自負しています。
他にはない、今回刊行したハンドブックの特徴
大屋 ローカル5Gを導入するとなりますと、生産現場で効率化を図るというような、そういう部署の方も当然いらっしゃいますし、情報通信ですので、ネットワークの管理部門の方々もいらっしゃると思います。一方で、それらに対して、予算をつけて設備投資をするという経営層の方々もいらっしゃるということで、欲張った形にはなるんですけれども、そういったさまざまなレイヤーの方々にローカル5Gの理解を深めてもらおうというのが、今回、ハンドブックを作った趣旨です。ローカル5Gに限らず、Beyond 5G、6G、それらがどこに向かっていくのか、どういうふうになろうとしているのか、その辺もこれから調査活動を中心に取り組んで行きます。
詳細は見ていただければご理解いただけるようにはなっていますが、一つの特徴が「どこかで見たことある絵が非常に多い」という点にあります。実際、我々がまったく何もないところから書き起こした部分というのはけっこう少なくて、いろいろなところに出てきた内容をあちこち探し回りながら再構成させていただいたところが多い。結果的にこの一冊見れば、全部わかるようになっています。逆に言えば、この一冊でローカル5G/5Gが全部説明できてしまうのです。あちこちに掲載の許諾をいただきながらの作業は自分たちで書く以上に実は大変だったんですが、無線の基礎がよくわかってない人から、6Gで実現すべき価値を研究している技術者にまで重宝していただけるものになったと自負しています。この場を借りてご協力いただいた団体・機関の皆様にお礼申し上げたいと思います。
林 ローカル5Gと言いつつも、Beyond 5Gや6Gみたいな、これから先の未来の世界についても委員会としてはこう考えていますよ、という部分にも力を入れています。単に、ローカル5Gを導入するためのマニュアルとしてだけではなく、広く5Gとか6Gにご興味が少しでもある人に読んでいただくと、この一冊で“そこそこのこと”がわかるような編集内容になっています。
大屋 まずは、ローカル5Gに興味を持っていただく、興味を持ったら、この一冊をペラペラめくると、そこそこにいろいろ書いてあります。マーケット予測も着眼する観点が変わると予測というのも見方が変わりますから、そのあたり、どこまで正確に伝えきれるか、少し悩んだのですが、データ提供いただいた機関の情報はやはり尊重しようという方針を貫いています。
加えて、このハンドブック配布のタイミングが、これまで総務省中心に実施してきた実証事業がほぼ今年度いっぱいで終わるというタイミングと同期しています。つまりPoCのフェーズから、自分たちで判断して自分たちで投資をして成果を得ていくというフェーズに移る段階ですので、このタイミングでより多くの方々にやっぱり5Gを知ってもらい、使っていただくという意味では良い時期に公開できたな、と思っています。
そしてこのハンドブックからのフィードバックというのは、まさにこのハンドブックでなければ返ってこないフィードバックとなるはずなので、それはまた一つの新しいコンテンツになるはずなんですね。なので、それが第二弾という形なのかどうかわかりませんけれども、今回のハンドブックに関する反響みたいなものもまた一つのネタになるような気がするんです。なので、それをしかるべきいいタイミングのときにやると、その時にまた今回のハンドブックを改めて参照したい、というニーズが発生するはず、とも想定しています。
林 このハンドブックはCIAJのホームページ上で告知して、そこからダウンロードしていただく形式になっています。加えてハンドブックのPRを映像化・公開してそこからのコメントも参考にさせていただきたいと考えています。さらに紙媒体としても近々に出来上がる予定になっておりまして、CIAJのイベントや展示会での配布、あるいはいろいろな方にお配りしていこうとしております。
また、幾つかの企業・団体が同じようなものを作られたりしているので、そのプロモーションを兼ねて、共同イベントみたいなことができないかを模索しています。その結果として各方面からいろいろなフィードバックがいただけると思うので、それを委員会のほうで受けて、委員会としてあるはCIAJとして何ができるかということを検討していきたいと考えています。
大屋 冒頭の林さんの説明の「これからのCIAJの方向性」で、産官学の絵があったんですけれども、これまで委員会もそうですし、CIAJも産と官の部分というのは、わりと密に連携をした活動が展開されていました。ただ“学”は、少々手薄だなと感じています。今回、このハンドブック、すごく広い層をターゲットに意識して作りましたので、少し学生さんなどで興味がある方々を集めて、ある意味、プロじゃない人たちの意見ですね。これからの日本を、世界をつくっていこうという、そういう方々の視線であったり、はたまた通信のユーザーになり得る方々としての学校関係ですね、そういったところとのパイプをつくって、通信のあり方なども今後、委員会として強化していこうと考えています。
参考:「ローカル5G事業参入ハンドブック1.0版」の公開について
https://www.ciaj.or.jp/topics2023/8487.html
CIAJ 5G/Beyond 5Gシステム委員会 委員長:大屋 靖男 氏(株式会社東芝)
CIAJ 5G/Beyond 5G システム委員会 副委員長:辻 弘美 氏(沖電気工業株式会社)
CIAJ 5G/Beyond 5G システム委員会 監事:小林 敏幸 氏(日本電業工作株式会社)
CIAJ 事務局 企画部 部長:林 健太郎 氏