「ミリ波普及推進アドホック」で短期間に成果を出す

日本では5Gの導入に向け、sub6と称される3.7GHz帯と4.2GHz帯とともにミリ波と称される28GHz帯が新たに移動通信向けに割り当てられた。sub6では1事業者当たり100MHzの広い周波数帯域幅が割り当てられ、4Gと比較してより高い性能を実現しているが、ミリ波については周波数帯域幅が1事業者当たり400MHzであり、sub6よりもさらに高速・大容量化を図ることができる。その意味では、ミリ波こそが5Gの本命と言える。

ただしSub6と比較し、あまり利用が進んでいないことから、大容量・長距離の伝送を可能とする技術や無線装置の小型化・低価格化等、利用促進に向けた技術の研究開発が急ピッチで行われている。第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)としても「ミリ波普及推進アドホック」を企画委員会内に立ち上げ、この動きをより一層加速させることになった。同アドホックの主査を務める中村武宏氏(株式会社NTTドコモ)にその意気込みを語っていただいた。

『「ミリ波普及推進アドホック」で短期間に成果を出す』

ミリ波が普及せずにサブテラ波が普及するわけがない

そもそもミリ波を何とか普及させなければいけないとずっと考えていました。長い間5Gの開発に関わっていましたが、やはりミリ波が技術的本命、いわば真打なんです。様々な実証実験を実施し、ようやく周波数も割り当てられ、開発されて、使用できる段階に入りました、というのが現状ですが、ご存じのとおりあまり普及していない。海外においてもミリ波の周波数割り当ては進展しているものの、商用エリア展開については米国や日本と比較してさらに限定的です。

現在、世界的に主にsub6で5Gの商用展開が進められています。今はまだ大丈夫ですが、トラフィックは継続的に増加しています。全世界のデータ消費量はあと3年で現在の5倍程度まで膨れ上がると言われています。さらに今後、XRデバイス等の先進的な端末の出現により、さらなる高速性を必要とするサービスが導入されるでしょう。6Gを待たずにミリ波を使わざるを得ないという時が必ず来ます。ですから、今のうちからミリ波をしっかり導入できるような技術と、世界的なトレンドをつくっておかなければいけないのです。

6Gではより高い周波数帯であるサブテラ波が射程に入ってきますが、ミリ波が普及せずに、サブテラ波が普及するわけがないのです。やはりミリ波を5Gのときからしっかり普及させて使いこなしておくことで、将来の6Gが見えてくる。5Gでミリ波を何とかしなければいけないのは、これが最大の理由ですね。

低価格化、各種ソリューションの可能性等も含めて、いろいろな研究開発を推進していますが、日本だけで何とか導入できるようになったとしても、結局、世界的に普及しないとエコシステムが成立しない。装置的には高いままになってしまいます。ですので、やっぱり世界的にミリ波が普及することが重要です。世界でミリ波を普及させるには、まず日本で先導すべきと考えています。日本で普及の足掛かりを確立させて、関係する企業から良質で安価なソリューションをどんどん提供していただき、それを国内で利用させていただきつつ、世界にもどんどん提供していただくようなことができれば日本企業としても、あるいは日本全体としてもいいことになります。

ここは一致団結して、まずは日本からミリ波普及促進に向けた活動をしようと考え、この5GMFでミリ波の推進グループを立ち上げようということになったわけです。「ミリ波普及推進アドホック」の設置目的はいうまでもなくミリ波の普及ですが、これに加え、「ミリ波に関する日本の国際的なイニシアチブを獲得する」ももう一つの非常に重要なゴールになると考えています。

『「ミリ波普及推進アドホック」で短期間に成果を出す』

ミリ波実装のための3つの改善点

ミリ波を普及させようと思ったら、大前提としては、私は3つ改善しなければいけないと考えています。まず一つは「すごいサービス」です。ミリ波特有のサービス、ミリ波でなければ提供できないようなアプリケーションです。これがミリ波普及の非常に大きなモチベーションになるはずです。「ミリ波の特徴を活かせるサービスの創出」が期待されるわけです。そして2つ目は「エリアの拡張」ですね。言うまでもないことですが、エリアを広げなければ普及しません。そして3つ目は「端末の普及」です。ミリ波の能力を搭載した端末を普及させる。今、iPhoneが日本国内ではミリ波対応していない(注:米国では対応している)ので、それを何とかしなければいけない。これら3つの改善点は相互に関連する問題なので、どれか一つを解決できるというものではありません。すべてを少しずつでも改善しながら良い相互作用を引き出せれば、普及のスピードを上げられると考えています。

特にユースケースの発掘・開拓については、バックキャスト的に今ないものを新たに創出するという発想が当然必要でしょうし、フォアキャスト的にも今あるものをより良くする、両方、必要なんだと思っています。フォアキャストは比較的発想はしやすいのですけれども、ちょっとドラスティックなものは出にくい。一方、バックキャストは絵空事になりがちというリスクがあるのと、「それは6Gじゃないの?」と思われてしまう可能性もあります。しかしいずれのアプローチも「両論併記」で進めていくべきだと思います。

全てのミリ波普及を推進する企業と連携する

ミリ波普及には、通信事業者や基地局ベンダ、移動機ベンダはもちろんのこと、前述の3つの改善点に対応するために様々な業種の企業との協力が必要と考えています。基地局や移動機のミリ波対応上はRFデバイス、アンテナ、測定器などに関わる企業のご協力が必要です。通信機器の設置や運用に関わる企業、ミリ波エリアを改善するための様々なソリューションを持っていらっしゃる企業、ユースケース開発に長けた企業も必要です。ミリ波とプライベートネットワークやローカル5Gとの親和性を考慮すると、これらに関わる企業や団体のご協力も必要でしょう。
私はNTTドコモの社員としてもミリ波を何とか普及させたいと思っておりまして、いろいろ活動しています。「ミリ波普及推進アドホック」でも主査を担当することになりましたが「方向性が全く同じ」なので、進め方に苦慮する、ということは全くありませんし、弊社の活動をうまく本アドホックの活動にも生かせればと思っています。むしろ協調しやすいと思っています。NTTグループはIOWNを推進しています。IOWNも基本的には高速、大容量、低遅延が大きな命題になっていますので、ミリ波、そして将来のサブテラ波についても精力的に対応いただいています。NTTの研究所では様々な高周波帯域用のアセットを持っており、実証実験に向けてもご協力頂いています。

「ミリ波普及推進アドホック」のメンバーをもっと増やしたい

今回、同じ課題意識を持った数多くの企業の方に集まっていただいて、大変感謝していますが、個人的にはもう少し広げたいのです。前述した通り、様々な企業や団体の協力が必要です。特にデバイスメーカーさん、そしてどういうミリ波用のアプリケーションを作っていくべきかを考えられるアプリケーション寄りの企業、さらに運用と実装が得意な通信系企業、そして最後にこれもまた言うまでもありませんが、ローカル5Gの実績を作っておられる企業群ですね。それぞれ一部すでに参加していただいているのですが、もっと広げたい。とにかく、来年度(2024年度)が色々な意味で勝負になってくると考えていて、ミリ波を本格的に国内外で「離陸」させたい。そのためにもメンバーシップも含め、今年度(2023年度)から早めに足固めさせていただいて、短期間で成果を出していきたいと考えています。「アドホック」というのはそういう意味ですね。

『「ミリ波普及推進アドホック」で短期間に成果を出す』
中村武宏氏(なかむら・たけひろ)
株式会社NTTドコモ
R&Dイノベーション本部 チーフテクノロジーアーキテクト
(5GMF企画委員会委員長代理 ミリ波普及推進アドホック主査)
 
1990年NTT入社。1992年より、NTTドコモにてW-CDMA、HSPA、LTE/LTE- Advanced、5GおよびConnected Carの研究開発および標準化に従事。1997年より電波産業会での移動通信システム標準化に参加し、第5世代モバイル推進フォーラムでは企画委員会委員長代理を務め、今回の「ミリ波普及推進アドホック」では主査を務める。なお1999年より3GPPでの標準化に参加し、2005-2009年、3GPP TSG-RAN 副議長、2009-2013年3月、3GPP TSG-RAN 議長を歴任している。6G関連でも、Beyond 5G推進コンソーシアム 白書分科会主査を務める。