総務省の5G総合実証試験がスタート。中間報告をMWE(マイクロウエーブ展)で実施予定

平成26年9月30日に設立された第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)の活動は、本年度の5月にスタートした総務省の5G総合実証試験という形で一つの節目を迎えつつある。この総合実証試験をバックアップする5GMFの活動を、佐藤孝平5GMF事務局長と奥村幸彦氏(5GMF総合実証試験推進グループリーダ、NTTドコモ5G推進室主5G方式研究グループリーダ)が語る。

佐藤孝平5GMF事務局長
佐藤孝平5GMF事務局長

佐藤 実証実験推進グループが2016年1月にできて約1年半が経過しました。当初の計画から若干変わったところもありますが、総合実証試験推進グループ(5G-TPG)として報告書を作ったという成果も上がり、かつ総務省のプロジェクトである、5G総合実証試験が今年5月から始まって、6つの試験グループから成るフレームワークがより具体的に動き始めました。まずは、5G-TPGとしての5Gに対する取り組み方がどのように変わったのかをお知らせしておきたいというのがこの連載第一回目の目的です。

奥村幸彦氏(5GMF総合実証試験推進グループリーダ、NTTドコモ5G推進室主5G方式研究グループリーダ)
奥村幸彦氏(5GMF総合実証試験推進グループリーダ、NTTドコモ5G推進室主5G方式研究グループリーダ)

奥村 昨年一月に、5GMFの中で総合実証試験の推進役として機能するグループである5G-TPGを立ち上げていただきまして、その趣旨に賛同する5GMFのメンバーの皆様が、それぞれ総合実証試験に向けてどのようなお考えをお持ちなのかを5G-TPGの中で議論いただきながら当初の試験構想・計画を練ることを進めてきました。

その後、総合実証試験の中身をより具体的にどのようなものにすべきなのかをかなり時間をかけて、そして丁寧に5G-TPG内で議論させていただきまして、その結果を5G-TPGの報告書という形で今年3月にまとめさせていただいた、とお考えいただければと思います。

この報告書は、「非常に多岐にわたる業種、業界の皆様が関心を持てるような、非常に幅広い5Gのユースケースを実証試験として行うことが望ましい」という5G-TPGメンバーの意見をまとめたものでもあります。それも単なる実証試験のイメージやこういう領域で何をするのがいいといった抽象論にとどまらず、より具体的にユーザー目線でどのような5Gの活用の仕方をすればいいのかということを超高速、超低遅延そして多数接続という5Gの特徴をきちんと活かすユースケース、アプリケーションサービスとその試験方法をそれぞれのメンバーの皆様が具体的な提案として持ち寄って、それを議論し、まとめていただくという形になっていましたので、すぐにでも実証試験の案に基づいて実行していける、より具体性を持った内容にすることが出来たと考えています。

5G-TPGは5GMFメンバーのうち20を超える企業、研究機関と大学の方々により構成され、5G-TPGメンバーの皆様から40以上もの実証試験として実行し得る提案をいただいたわけです。5G-TPGの中で一つひとつの提案のことを「5Gの利活用プロジェクト」という名前を付けていたのですが、その一つひとつの提案プロジェクトの内容は、先ほど申し上げましたどのようなユースケースであるかということに加えて、そのユースケースを試験し、評価していく際に前提となる技術、評価モデル、試験環境や、関連するさまざまな業種の企業や団体──最近“バーティカルプレーヤー(Vertical player)”と呼ばれていますが──などに関する情報を取り入れて、より価値のある内容にすることができたと思います。5GMFで取りまとめをした白書の中では、5Gシステムとして特徴ある新しい無線アクセスの技術、ネットワークの技術、アプリケーションの技術がうたわれていたと思いますが、そのようなシステムを支える技術のうち、どれを使ってどのユースケースを実現するのかという関係性の詳細が各提案プロジェクトの中に含まれています。

40を超える提案プロジェクトを、報告書の中では6つのユースケースに関するカテゴリーに分けて整理し、編集したわけですが、それらのプロジェクトの中には、従前の4G以前のシステムでも実行されたユースケースに似たものも含まれています。しかし、やはり4Gでは十分に、本当にやりたいユースケースの中身を実行し得ない、いま一歩、手が届かなかったというところを、5Gを使うことで初めて実現できるようになるというような、前世代との差分が何であるかを明確にすることも行ってきております。5Gがその特徴をちゃんとネットワークとして実現できることによって、新たに創出されるアプリケーションやサービスが具体化可能になるというものをできるだけ多く盛り込む形で、まとめることができたと思います。

奥村幸彦氏(5GMF総合実証試験推進グループリーダ、NTTドコモ5G推進室主5G方式研究グループリーダ)

奥村 これがまさに昨年度末に作った5G-TPGの報告書です。これは先ほどの40を超える総合実証試験に向けた提案プロジェクトが収録されてあるわけですが、必ずしもすべてのプロジェクトを確実に実施していくということを想定しているわけではなく、実施可能性のあるポテンシャルとしてのプロジェクト案とお考えいただければと思います。佐藤様が先ほど述べられた総務省の総合実証試験は、そのフレームワークの骨格を作成されるにあたり、この報告書の内容も参考とされています(ここで、5G-TPG報告書の6カテゴリーと、総務省の総合実証試験の6つの試験グループに対応関係はありませんのでご注意ください)。

今回、総務省は、電波利用料を財源とした周波数逼迫対策のための技術試験事務と言われる制度を使って総合実証試験のフレームワークづくりを実施、技術試験事務の請負者を公募により決定されました。その公募時に提示された技術試験事務の内容に関する仕様書の作成に際し、この報告書の中身も参考にされたわけですが、それにより国内において積極的に実証試験に取組みたいと考えているプレーヤーがどのような試験をやりたいかも鑑みて実施性の高い仕様書としていただくことができました。

5G総合実証試験

奥村 これが今年度、実際に総務省が作られた総合実証試験の試験グループを1から6まで用意されたというもので、一番右にそれぞれの試験グループの技術目標が示されていて、超高速通信の実現、低遅延通信の実現、多数同時接続の実現などがあります。5Gに関してはこの実証試験を行う前に、総務省の研究開発のプロジェクトが2015年から4年計画で既に進められていますが、その研究開発の成果を活かして社会への普及のところの検討を進めるという位置付けとなるこの実証試験フレームワークも含め、総務省には5Gの実現に向けた有意義かつ価値ある施策となるよう、取組を推進してきていただいています。

佐藤孝平5GMF事務局長

佐藤 これは技術目標が単年度ごとに決まっていて、当然、次のステップに行くともう少しハードルの高い目標になるので、それを目指してやっていただくということになります。その意味においても1年ごとにどのような成果を出せたのか、どんな成果があったのかをきちんと公開していく必要がありますね。

奥村 実証試験の進捗は試験グループごとに当然異なります。さらに試験グループの中に幾つかのサブグループが複数並行して走っていまして、それらは実施する場所も首都圏のみならず全国に散らばっています。実証試験を実施する場所を首都圏に集中させず、地方を含めて全国に分散させるというコンセプトとともに、東京オリンピック・パラリンピックに貢献できるような実証試験のテーマが盛り込まれているのが今回の実証試験の特徴となっています。

佐藤 もう一つの特徴は、(繰り返しになりますが)主な想定パートナーがバーティカルプレーヤーと呼ばれる業界の方々だということですね。従来の実証試験は通信業界だけで閉じていたケースが多いのですが、5Gになると、やはりバーティカルプレーヤーと組んでいかないと有効な試験にならない。ここが非常に注意が払われたところと理解しております。

奥村 それぞれの実証試験の進捗は段階的に発信していきます。例えば先日開催されたCEATEC JAPAN 2017における「5Gワークショップ」では、5Gを利用するエンターテインメント、セキュリティ、遠隔医療、建機の遠隔操縦、自動運転の隊列走行など、かなり具体的でそのまま使えるとさえ思えるようなユースケースを含む実証試験の具体的な内容を紹介させていただきました。次回の実証試験の進捗に関する大きな発表は、11月29日により開催される講演および展示イベントになるということで、そこに向けて全試験グループが鋭意準備を進めているところです。

佐藤 11月29日からのイベントは、マイクロウェーブ・ワークショップ&エキシビション2017(MWE2017)で、電子情報通信学会主催、総務省後援によりパシフィコ横浜で開催され、初日の午後に行われる2時間の講演セッション(第5世代移動通信システム5Gの実現に向けた総合実証試験 :System Trials toward Actualization of 5th Generation Mobile Communication System 5G )とその後3日間行われる展示により、各試験グループにおける実証試験の進捗と今後の計画を報告する予定になっています。そしてこの年内のイベントを経て、年度末の来年3月に予定されている今年度の実証試験の成果全体を総括して発表するイベントへ繋がって行くことになるわけですね。

奥村 はい。それらのイベントを通して、通信業界のみならずバーティカルプレーヤーの方々、そしてより広く一般の方々に分かりやすく、実証試験の成果とそれに基づく5Gが創り出す新たな世界を理解いただき、体感いただける場になるようにしたいと考えていますが、まず11月29日からのMWE2017に、出来るだけ多くの方々がご来場いただけますと幸いです。

佐藤孝平5GMF事務局長/奥村幸彦氏(5GMF総合実証試験推進グループリーダ、NTTドコモ5G推進室主5G方式研究グループリーダ)