【5G標準化最前線レポート】高速大容量と超高信頼低遅延のどちらを先行するか、3GPPで議論が二分
中村 武宏(5GMF企画委員会委員長代理、NTTドコモ5G推進室長)
永田 聡(3GPP TSG RAN WG1議長、NTTドコモ5G推進室)
5Gの議論が3GPPで本格化している。9月の3GPP会合では、5Gに対応する最初のリリースであるRelease 15の議論で、5Gのスコープについての討議が行われた。最も早く規格化する5Gに、どのような要件を入れるかを定めるものだ。
5Gの要件には、大きく3つが挙げられている。
・eMBB(enhanced Mobile Broadband):高速大容量の5G
・URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications):超高信頼低遅延
・mMTC(massive Machine Type Communications):大量な端末による通信
2020年に商用化を想定する5Gだが、当初からすべての要件を満たすことは、技術開発や実装などの問題から現実的ではない。そのため、5Gのターゲットとしてこれらの要件からどのような順番で仕様化を進めるかの議論が行われている。
9月時点の状況では、大きく2つの意見に分かれている。1つは、eMBBを先行して仕様化したい勢力、もう1つは、URLLCを先行したい勢力だ。
eMBBを推進するのは、NTTドコモをはじめとする日本勢、韓国勢、エリクソン、ノキア、クアルコムといったベンダー系のグループだ。高速大容量の5Gの規格化を先行することで、2020年の商用化開始時点で高速大容量通信を実現することを狙う。通信が集中するホットスポットなどにブースト的に5Gを適用して、トラフィックの需要増加に対して安定した通信環境を提供できるようにする。
一方、URLLCを推進するのは、中国や一部のヨーロッパの通信事業者を中心とするグループだ。URLLCは、低遅延だけでなく信頼性を高めた無線通信の実現を目指す。自動運転、遠隔医療、触覚を活用したタクタイルコミュニケーション、産業機器やIoTなど、応用範囲が広く、これまでの高速大容量通信とは異なるユースケースでの活用が期待されるためだ。URLLCを推進するグループは、5Gでこれまでの高速大容量とは異なるサービスによって収益を上げることを想定している。
3つの要件のうち、mMTCについては、先行する必要はないという意見で全般的に統一されそうだ。こちらは、LTEの技術である程度、要件を担保できるめどが立ってきているためである。5GにおけるmMTCの仕様化は、現在議論を始めているRelease 15に次ぐ、Release 16で問題ないのではという流れになってきた。
eMBBとURLLCのいずれを先行するかという議論は始まったところで、実際の動きは今後の議論を待たなければならない。
1つ技術的に注目したいのが、eMBBの技術が、URLLCにも対応できる可能性を持つことだ。高速大容量を高い周波数帯で実現する際に、低遅延の性能もある程度は実現できる可能性である。LTEではサブキャリア間隔が15kHzで、1ミリ秒ごとに区切ってリソースブロックを構成している。これを高周波数帯に対応させるため、例えばサブキャリア間隔を60kHzにすると、リソースブロックの時間軸の区切りは4分の1の0.25秒になる。すると、自然とLTEよりも低遅延の性能を確保することが可能になる。eMBBが先か、URLLCが先かという議論と同時に、今後の技術仕様の確定によりそれぞれの要件へ対応できる可能性にも目を向けておきたい。