海外の5G動向【2021年6月度】

5Gにおけるネットワークのソフトウェア化は当初から予想されていた動きだが、これがオペレータ(通信事業者)とクラウド事業者の接近、5GMECの採用という形で現実のものになりつつある。例えばAWS(Amazon Web Services)はすでに米Verizonや英Vodafoneなど、数多くのグローバルオペレータと契約及び開発を進めており、Azure(マイクロソフト)がこれを猛追している、という状況が展開されている。オペレータは5Gネットワークとエッジコンピューティング及びストレージサービスを組み合わせたサービスをユーザーに提供できる、ということになる。

ただし、オペレータが特定のクラウド事業者とエクスクルーシブな契約を結ぶケースは少なく、状況に応じて使い分けるというスタンスが一般的と思われる。AWS、Google、Microsoftなどのクラウド事業者は当初から厳しい戦いを強いられるということになり、アプリケーションレベルでの差別化が必要になってくる。これは新しいクラウド事業者にもまだまだチャレンジの機会は与えられている(DELLがこの分野で猛追している)、ということにもなるだろう。

なお、5GMEC(5G Multi-access Edge Computing)は欧州電気通信標準化機構 (ETSI:European Telecommunications Standards Institute)が標準化を進めている技術規格だ。クラウドの代わりにMECプラットフォームを設置しエッジでの処理を増やすことで、通信量を減らし、当該エリアにある端末のレスポンスを向上させる。スタジアムなどの限られたエリアに人が密集し同じ映像にアクセスするときなどに威力を発揮すると思われる。5G端末だけを対象にするわけではなく、固定網や4GLTEなどからのアクセスも考慮されているので「マルチアクセス」という。

もう一つ今月注目しておきたいニュースは米国立科学財団(NSF)による次世代通信技術に関する新プログラム「Resilient and Intelligent NextG Systems(RINGS)」の発表だ。次世代の通信規格6Gのための48の表彰に4000万ドルを投入するという。

以下、6月の海外の5G情報をお伝えする。

エリクソン、新たなプライベートLTE/5Gソリューションを提供開始【Fierce Wireless 6/2】

スウェーデンのエリクソンは欧州時間6月1日、製造業や鉱業、素材産業、海洋産業、港や空港などを主な顧客に想定したプライベートLTE/5Gサービスをリリース。「Ericsson Private 5G」と呼ばれるこのサービスは、様々な施設に数時間で配備できる導入の容易さやスケーラビリティ、柔軟性が特徴で、具体的なユースケースには「デジタルツイン技術を用いた倉庫の生産性向上のためのアセットトラッキングやリアルタイム・オートメーション」、「AR技術による品質検査の効率化」、「監視ドローンを活用した鉱山労働者の安全性向上」などが挙げられている。

原文:Ericsson packages 5G private network suite

エネルギー大手のエクイノール、自社発電所へのプライベートLTE導入でノキアらと協力【ComputerWeekly.com 6/2】

ノルウェー・エネルギー大手のEquinorは現地時間6月1日、自社発電所に将来的な5Gへの移行を予定するプライベートLTE網を導入することでノキアおよびシステムインテグレーターのNetNordicとの契約を締結。新たな8年契約はローカル無線網の設計や計画、実装、サポート、必要なハードウェアやソフトウェアの提供などに関するもので、まずはこの夏、イギリスのダジョンとシェリンガムショールでEquinorが保有する洋上風力発電所にローカルLTE網が配備されるという。

原文:Equinor powers global collaboration with 5Gready private LTE network

英ボーダフォン、5G Open RAN RICのマイルストーン達成を発表【SDX Central 6/4】

英ボーダフォンは先ごろ、 Capgemini Engineering、Cohere Technologies、インテル、Telecom Infra Project(TIP、Open RANの業界団体)、VMウェアらとマルチユーザMIMO環境下でのOpen RANトライアルを実施。これらのベンダーのOpen RANコンポーネントに対応するAIベースのRANインテリジェント・コントローラー(RIC)を活用し、ラボテストで5G基地局の通信容量を倍増させることに成功したと明らかにした。ボーダフォンは今回のトライアルについて、「RICをコアに据えたOpen RAN導入の可能性を示す重要なマイルストーン」と説明している。

原文:Vodafone Claims 5G Open RAN RIC Milestone

ベライゾン、米国で商用プライベート5Gサービスを開始【Reuters 6/10】

ベライゾン・ビジネスは米国時間6月10日、米国内の法人や政府機関向けに屋内および屋外の高速接続を実現する商用プライベート5Gサービスを開始。同社によれば、現時点で同サービスにはトレーディングフローの高速化を求める金融機関やロボットや自動運転車の活用を計画する倉庫業者などからの大きな需要がある。

原文:Verizon turns on commercial private 5G in U.S.

米国立科学財団、ポスト5Gの無線通信システム開発に大手テック企業らと協力【Nextgov.com 6/8】

米国立科学財団(NSF)は先ごろ、次世代通信技術に関する新プログラム「Resilient and Intelligent NextG Systems(RINGS)」を発表。このプログラムでは、NSFが国防総省や国立標準技術研究所(NIST)の他、アップル、グーグル、IBMなどの大手テック企業と協力して新たなWi-Fi規格や6Gなど次世代の通信技術に関する新研究に取り組む。NSFはこのプログラムについて「最大で48の表彰に4000万ドルを上限に資金を投じる見積もり」としている。

原文:NSF, Tech Companies Partner to Create Post-5G Wireless Systems

サムスン、5G設備供給で英ボーダフォンと契約【Reuters 6/14】

韓国サムスンと英ボーダフォンは6月14日、5Gネットワーク機器の供給に関して契約を結んだことを発表。これまでノキアとエリクソン、ファーウェイが支配してきた欧州通信機器市場では、サムスンが存在感を増しており、スペインのテレフォニカやフランスのオレンジなどの大手携帯通信事業者も同社と協議を行ったことを認めていた。

原文:Samsung enters Europe with Vodafone 5G network deal in Britain

マイクロソフト、プライベート5G網向けに「Azure Private MEC」をリリース【The Fast Mode 6/18】

マイクロソフトは米国時間6月16日、マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)向けのハードウェアとソフトウェア、クラウドサービスを組み合わせた新たなソリューション「Azure Private MEC」をリリース。同社の「Private Edge Zones」を進化させたこのソリューションは、企業が工場などにプライベート5G網を配備する際に活用できるもので、エッジ環境での超低遅延の通信やアプリケーション、サービスの導入などを実現するという。

原文:Microsoft Launches Azure Private MEC for Private 5G Networks

トルコ家電最大手のアルチェリク、プライベート5G網導入でノキアおよびTürk Telekomと契約【Capacity 6/16】

トルコ最大の家電メーカーであるアルチェリク(Arçelik)は先ごろ、トルコ国内初のローカル無線ネットワークの配備でノキアおよび現地通信大手のTürk Telekomとの戦略的契約を締結。3者は現地のコジャエリ州にあるアルチェリクの洗濯機製造工場に将来的な5Gへのアップグレードを見据えたプライベート無線通信網を配備し、リアルタイム・アセットトラッキングや安全性・セキュリティ向上のための映像分析などに活用する見込みだという。

原文:Arçelik selects Nokia, Türk Telekom for 5G private wireless network

世界の5G契約者数は年内に5億8000万人に到達(エリクソン見積もり)【Reuters 6/16】

スウェーデンのエリクソンは現地時間6月16日、世界の5G契約者数が2021年末に5億8000万人を突破し、2026年には35億人に達するとする見積もりを発表。エリクソンによれば、現在5G契約者数が最も多い地域は中国を含めた東南アジアとなっているが、2026年には北米がこれを上回り、全モバイル契約者の84%が5G契約者となるという。また、2026年のモバイル契約者に占める5G契約者の割合は中東で73%、西ヨーロッパで69%まで増加するとの見積もりも出されている。

原文:Ericsson sees global 5G subscriptions hitting 580 mln this year

ノキア、航空機整備施設へのプライベート5G網提供でルフトハンザと契約【Mobile World Live 6/21】

フィンランドのノキアは先ごろ、プライベート5G網の提供で航空機整備サービスプロバイダーのルフトハンザ・テクニークと契約。ノキアのプライベート5G網はハンブルクにあるルフトハンザの航空機整備施設に配備され、高画質ライブ映像を用いた遠隔でのエンジン保守点検など様々な用途で活用されるという。

原文:Nokia cleared for private 5G take off with Lufthansa

AT&T、テキサスA&M大学のレリスキャンパスにプライベート5Gテストベッドを設置へ【The Fast Mode 6/23】

米通信大手のAT&Tは今秋、テキサスA&M大学のレリスキャンパスに民間企業や公的機関による5Gを活用したアプリケーションやソリューションの開発を手助けするローカル5Gテストベッドを設置する。このテストベッドには、米国防総省の11の近代化優先事項のうち5つ(極超音速、AI、自律化技術、サイバーセキュリティ、指向性エネルギー)の分野の大規模なテスト・評価拠点が設置され、民間企業向けには自動運転やコネクティッドカー、ロボット、交通安全、大規模インフラ、自律型農業、IoT、スマートシティ/キャンパスなどのユースケースを想定している。

原文:AT&T to Launch Private 5G Testbeds at the RELLIS Campus

Telekom Austria、ファーウェイおよびZTEの通信機器の5G網への採用を検討【Reuters 6/23】

メキシコ通信大手のアメリカ・モービル傘下のA1 Telekom Austriaが、通信事業を展開する複数の国で5G網にファーウェイやZTEの通信機器の採用を検討していることを同社の幹部が明かした。同社はオーストリアやブルガリア、クロアチア、ベラルーシ、スロベニア、セルビア、北マケドニアなどで通信事業を展開しているが、現時点でこれらの国では中国製通信機器の排除に関する圧力はほとんどないという。

原文:Telekom Austria may consider Huawei, ZTE for 5G networks-COO