海外の5G動向【2023年8月度】
今月は、日本国内でも当初から予想されていた“ローカル5Gが活躍しやすい場所”、すなわちAIとの組み合わせによる高度な処理が必要な工場、特定多数の人たちが一箇所に集まることになるスタジアム、そして「遠隔診療」ではなくロボットアーム等を駆使した「遠隔手術」などの具体的な詳細をご報告する。これらの記事からは、欧米・中国では、プライベート5G関連機器の小型化およびコストダウンにより、テストベッドを乗り越え、ビジネスとしての回収モードにシフトしつつある様子が伝わってくる。つまり「プライベート5Gで儲けるユーザー企業や団体」が誕生しつつある、ということだ。また以下にご紹介する「ラグビーのアイルランド代表チーム」のように(アプリケーション自体は同じだが)Wi-Fiからリプレースする案件があることにも注目しておきたい。日本国内ではWi-Fi 6(11ax)普及の兆しが見えつつあるが、ミッションクリティカルな業務における安全性(セキュリティ)などに関してはローカル5Gに絶対的な優位があることは忘れないようにしておきたい。
以下、2023年8月の世界の5G・ローカル5G(および6G)の動向として、これらの詳細をお伝えする。
エリクソンとAWS、日立製作所が製造業向けプライベート5Gの実証実験で協力 【 sdxcentral 8/30 】
スウェーデンのエリクソンは8月29日、AWSおよび日立アメリカのR&D部門と製造業向けプライベート5Gのトライアルを開始したと発表した。この5G網は、すでに米ケンタッキー州ベレア市にある日立アステモ・アメリカズのEV工場に導入されている。新たなソリューションは、エリクソンのプライベート5GプラットフォームとAWSのSnow Familyデバイス群を活用したものだ。EV向け部品生産ラインのリアルタイム映像をプライベート5Gを通じてAWSのSnowball Edgeデバイスに送信し、日立の映像解析ソフトウェアで分析することで潜在的な欠陥を検出する。3社によれば、新たな仕組みは従来のアプローチによる検査と比較してはるかに効率的で、24個の組み立て部品をサブミリメーターレベルで同時に検査することができる。なお、プライベート5G網の導入は3日で完了した、と報告している。エリクソンのPCNコマーシャルオペレーション部門の責任者を務めるThomas Noren氏は「これらのソリューションは、製造業や企業環境ですぐにでも導入することができ、アーリーアダプターとしての様々な競争上の優位性が確保できるでしょう」とコメントしている。
エリクソンとボーダフォン、ラグビーのアイルランド代表に最新プライベート5Gソリューションを提供 【 lightreading 8/18 】
スウェーデンのエリクソンとボーダフォン・アイルランドは8月18日、ラグビーのアイルランド代表チームに最先端の5Gモバイル・プライベート・ネットワーク(MPN)技術を共同で提供すると発表した。このプライベート5G網は、今年9月にワールドカップを控える同チームに高速で信頼性の高いデータ分析を可能にするという。新たな5GスタンドアロンMPNソリューションは、これまでスタジアムやトレーニング施設で活用されてきたWi-Fiを置き換える形で導入された。AIとの組み合わせによりダウンロード/アップロードの高速化や低遅延を実現し、ピッチ上でのリアルタイムのパフォーマンス分析や意思決定に活用できる。同技術では、信頼性の接続を利用し、複数のカメラと5G接続ドローンによって最大8つの高解像度動画を取得。リアルタイムで分析してチームのパフォーマンスに関するデータをまとめる。この技術は、アイルランド代表のトレーニング施設でテストが実施され、ワールドカップの際には特注のコネクティッドカーで開催国のフランスに持ち込まれる予定になっている。ボーダフォン・アイルランドのネットワークディレクターを務めるSheila Kavanagh氏は「この5G MPNとドローン、その他テクノロジーは、代表の分析チームをサポートし、非構造化データを素早く分解・整理し、他のコーチングスタッフやマネジメント層にわかりやすく提示するために役立つ」とし、「この最先端テクノロジーソリューションの提供を通じて、代表チームにさらなる価値を提供できることをうれしく思います」とコメントしている。
原文:https://www.vodafone.com/news/technology/5g-helps-irish-rugby-team-prepare-world-cup
Virgin Media O2 Business、英国初のポータブルなプライベート5Gサービスを提供開始 【 fiercewireless 8/2 】
英通信事業者のVirgin Media O2 (VMO2)Businessは8月2日、ポータブルな商用プライベート5G(SA方式)サービスの提供開始を発表した。英国では初のサービスだといい、あらゆる規模の企業がスイッチ1つですぐにプライベート5G網を利用できるという。新たなポータブルネットワーク機器は「機内持ち込みバッグよりわずかに大きいサイズ」とされ、通信を専門としないエンジニアにも導入可能だという。このプライベート5G網は、VMO2ライセンスの3.5GHz帯と共用アクセスの3.7GHz帯をサポートしており(使用する場所に応じて周波数帯が決定される)、屋内外で利用が可能だ。VMO2 Businessによれば、この製品にはノキアのローカル無線ソリューション「Nokia Digital Automation Cloud(DAC)」とエッジソリューション「Nokia MX Industrial Edge(MXIE)」が使用されている。すでに、テレフォニカのイノベーション部門であるWayra、英音声技術スタートアップのMobius Labなどがこのソリューションを利用している。VMO2ビジネスのマネージングディレクターを務めるJo Bertram氏は「当社の最新ネットワークソリューションにより、スタートアップから大企業まであらゆる企業がネットワーク全体の構築に時間やコストをかけることなく、5Gの試験運用や展開が可能になる」とコメントしている。
原文:https://www.fiercewireless.com/private-wireless/virgin-media-o2-offers-5g-sa-private-network-box
中国の研究機関、5Gロボットを活用した動物の遠隔眼科手術に成功 【 chinadaily. 8/1 】
中国の中山大学中山眼科研究センターは先ごろ、独自に開発した5Gロボットを利用した動物実験で、世界初のミクロンレベルの遠隔眼科手術に成功したと発表した。これは眼科手術分野における画期的進歩で、順調にいけば、同技術は今後半年以内に人間の手術にも利用できるようになる可能性があるという。この「5G遠隔高精度眼科手術ロボット」は、中山眼科センターの林浩添教授の研究チーム、同大学コンピューターサイエンス学院の黄凱教授の研究チームらが共同開発したもの。5G通信を利用して人間の手の動きと連動するロボットアームを遠隔操作し、高精度の手術を実現できるとしている。今回の実験では、執刀医が600km離れた海南眼科病院からロボットアームを操作し、12羽のウサギの手術を実施した。これらのウサギは術後1か月ほど経過した現在も安定した状況にあるという。林教授は「今回の成果は、眼科の発展における不均衡や、一流の医療資源が国内で偏在している現状に対処する上で大きな意味を持つ」とコメントしている。
原文:https://www.chinadaily.com.cn/a/202308/01/WS64c85c36a31035260b819998.html