海外の5G動向【2023年10月度】
海外のプライベート5Gは(下記で紹介するように)ウイスキー蒸溜所のような意外なところへの普及も始まっている。それも付加価値をつけるというよりもコスト削減のためという点がユニークだ。さらにプライベート5G(日本のローカル5G)の普及それ自体が目的化しているわけではなく、必要に応じて、他の周波数帯も組み合わせた「総合的な提案」が現実的なソリューションとして認識され始めている。日本国内においても「プライベートLTEの先進国」としてのアドバンテージを保持しつつ、ローカル5G、あるいはWi-Fiをも組み合わせた提案を待っているユーザー企業は多いと想定される。
以下、2023年10月の世界の5G・ローカル5G(および6G)の動向として、これらの詳細をお伝えする。
USセルラー、KPMGのシカゴ本社にローカル5Gを導入
【 rcrwireless 10/24 】
米通信大手のUSセルラーは10月23日、コンサルティング会社大手・KPMGのシカゴ本社にある顧客共創施設「Ignition Center」に同社のローカル5G網を導入したと発表。この5G網を活用することで同施設の敷地面積約2,800㎡をカバーし、KPMGの顧客が新たなインダストリー4.0ソリューションを試すための革新的なデジタルラボ体験が提供できるという。KMPGは、製造業や倉庫業、流通業向けにIoTベースのDXソリューションの開発を検討しており、新たなローカル5G網は当面これらの分野のユースケースにフォーカスする。具体的には、センサーや機械学習、AI、AR/VR、自律型ロボットなどによる製造設備の接続などが含まれるという。USセルラーのエンタープライズセールス/オペレーション担当SVPを務めるKim Kerr氏は「当社の隣人で、ユニークで先進的なテクノロジー環境を提供するIgnition Centerとの協力は完全に理にかなったこと」とし、「ローカル5Gの導入で、KPMGの広範な専門知識のポートフォリオをさらに充実させ、新たなユースケースを発見するための継続的イノベーション戦略をサポートできることにワクワクしている」とコメントしている。
スコッチウイスキー蒸留所、5G投資で大幅なコスト削減の可能性(スコットランド5Gセンターレポート) 【 mobileeurope 10/17 】
スコットランド5Gセンターは先ごろ、ウイスキー蒸留所における5G利用の可能性に関する新たなレポートをリリースした。これによれば、スコットランドのウイスキー蒸留所は5G技術に投資することで、5年間で3,000万ポンド(約55億円)のコストを削減できる可能性があるという。同レポートによれば、ウイスキー生産に5G技術を活用することは、安全衛生、樽の管理、現場管理やメンテナンス、セキュリティなどの面でメリットをもたらすとのこと。具体的には「5G対応のジオフェンシング(Geofencing:特定エリアに仮想的なフェンス(柵)を作る仕組み。
特定ユーザーがスマートフォンを持ってフェンス内に出入りする際に、適切な情報の制御が可能になる)」、「樽管理プロセスの自動化による生産性向上」、「アセットトラッキングによる設備ダウンタイムの大幅な削減」、「自動化された遠隔セキュリティ対策の実装」などがメリットに挙げられており、中規模の以上の蒸留所では、5G導入によって年間37万6,500ポンド(約7億円)の潜在的利益を得られる可能性があるという。スコットランド5Gセンターの責任者を務めるIan Sharp氏は「今回のレポートは、5G接続技術とプライベート5G網に投資することで、蒸留所がコストを削減するだけでなく、ビジネス全体の生産性と効率性を高める新たな働き方を実現できることを示している」とコメントしている。
原文:https://www.mobileeurope.co.uk/scottish-whisky-distillers-could-save-30m-over-five-years-using-5g/
原文:https://www.heraldscotland.com/news/23859444.scotland-5g-report-finds-tech-save-distilleries-30m/
ノキア、中小企業向けのコンパクトなローカル5Gソリューションを発表 【telecomstechnews 10/4 】
フィンランドのノキアは10月4日、同社のローカル5Gソリューション「Digital Automation Cloud(DAC)」を中小規模の産業施設向けに最適化した「DAC PW Compact」を発表した。新たなソリューションは、より小型のフォームファクタでDACのあらゆるセキュリティや無線性能、信頼性を提供するという。「DAC PW Compact」はノキアの「AirScale」スモールセルをベースにしたもの。中小企業の利用を想定したソリューションで、初期投資がかからないサブスクリプションモデルで提供される。また、Wi-Fi比較で最大60%高いエネルギー効率も特徴だという。ノキアはまず、米国で同ソリューションの販売を開始。CBRS周波数帯を活用したプライベートLTEおよびローカル5G網を提供する。同社のリセラー/システムインテグレーター・パートナーであるDXC Technology、Future Technologies Venture、Graybar、Trilogy NextGenを通じて利用可能で、顧客は事前定義された3つの構成から自社にマッチしたものを選択する形になる。ノキアは新たなソリューションについて「小規模な産業施設向けのコスト効率の良い接続オプションであり、中小企業にとってインダストリー4.0への最も経済的なエントリーポイント」とコメントしている。
インド工科大学、6G研究で米インターデジタルと提携 【 developingtelecoms 10/1 】
インド工科大学カンプール校(IIT-K)は先ごろ、無線通信・映像技術の研究開発企業である米インターデジタルとの研究パートナーシップを発表した。将来の無線通信規格に影響を与える6G実現技術の開発が目的だという。新たなパートナーシップの一環として、インターデジタルは5G-Advancedおよび6G網の展開に必要なスペクトラム効率とネットワークカバレッジの向上を達成するためのMIMOシステムに関するIIT-Kの研究および技術革新を支援する。この研究は、6G網の拡張を可能にし、メタバース体験やホログラフィック通信、デジタルツインなどの高度なアプリケーションの帯域幅とカバレッジに対する需要増加に対応するために不可欠だという。IIT-Kで新たな研究を率いるRohit Budhiraja教授は「このパートナーシップは、インドがBharat 6G Vision Document(6G構想文書)を発表し、6G技術の世界的リーダーになるための基礎を築いた好機に実現した」とし、「学術界は、6Gの標準化につながる高度な研究という点でも、6Gの技術コンポーネントの開発という点でも、大きな役割を担っている」とコメントしている。
原文:https://www.rcrwireless.com/20230928/6g/interdigital-signs-6g-research-agreement-india