海外の5G動向【2023年12月度】
従来からローカル5Gは、厳密な運用管理が求められる物流拠点、運輸、製造業における工場や開発拠点などから普及するだろう、と予想されていたが、実際、以下に紹介するエリクソンとオレンジ(スペイン)の連携ではそれが実証され、かつ生産効率の向上につながる事例が紹介されている。一方、ここのところ米・アップルの6Gを射程に入れた動きが活発化しているが、やはり注目しておきたいのはVision ProがB2B用途を睨んでの高価格設定がなされていることだ。すなわち「物流、運輸、製造業」における活用が想定されている可能性が高い。日本は世界各国と比較してiPhoneの普及率が高いことが知られているが、現時点ではミリ波(mmWave)には対応していない(米国の端末は対応済み)。日本の場合はこのVision Proと(次世代の)ミリ波対応のiPhoneが5G・ローカル5G普及の起爆剤になる可能性が高いと思われる。
以下、2023年12月の世界の5G・ローカル5G(および6G)の動向として、これらの詳細をお伝えする。
エリクソンとオレンジ、スペインでのローカル5G網提供で提携
【 rcrwireless 12/22 】
スペイン通信大手のオレンジ・スペインとスウェーデンのエリクソンは12月21日、スペイン国内のB2B企業向けに独自のローカル5G網を提供することで提携。このような提携はスペイン国内初の試みで、物流業や運輸業、製造業などが潜在的なターゲットとなる。新たなローカル無線網には、オレンジの5G SA(スタンドアロン)網をサポートするエリクソンのデュアルモード5Gコアを活用。また、顧客企業の施設には、エリクソンの「ローカルパケットゲートウェイ」などの専用ネットワーク機能を配備。リアルタイムの自動化や生産性の向上、作業員の安全性の強化、セキュリティや信頼性、カスタマイズ性、コスト効率の向上といったメリットが見込まれるという。オレンジ・スペインのMónica Sala CTOは「B2B企業向けに各社のニーズに合わせた専用ネットワークを提供することで、ビジネスが新たなチャンスを掴み、各業界における競争力を獲得できるよう手助けする」とコメントしている。オレンジ・スペインは2023年第3四半期末時点で、スペイン38都市で5G SA網を展開しており、マドリードやバルセロナ、ビルバオ、バレンシア、セビージャなど初期から展開する都市でのカバレッジは80%近くに達しているという。
また、5G網全体(ノンスタンドアロンも含む)では、2023年9月末時点で人口カバー率83.2%に達しており、スペイン全土の2,436の市町村で5Gサービスを提供している。
原文:https://www.rcrwireless.com/20231222/5g/orange-spain-ericsson-ink-deal-deliver-private-5g-networks
原文:https://www.mobileworldlive.com/orange/orange-ericsson-combine-for-spain-private-network-push/
エリクソン、韓国CJ Logisticsの物流拠点にローカル5Gを導入
【rcrwireless 12/15】
スウェーデンのエリクソンは先ごろ、韓国物流大手のCJ Logisticsがインチョンで運営する物流拠点「Ichiri Center」にローカル5Gを導入したと発表。この通信網は、貨物の荷受けや仕分け、分類、積み下ろし工程の調整など、幅広い作業に活用されているという。CJ Logisticsではこれまで、敷地面積約4万㎡の同拠点に300個のWi-Fiアクセスポイントを設置してネットワークを活用してきたものの、「Wi-Fiデッドゾーン」や突然の接続停止といった問題がしばしば発生していたという。新たなローカル5G網はこれらの問題に対処するために導入され、導入後に同センターの生産性は20%向上したとのこと。特に、棚から商品を取り出して出荷準備をするピッキング作業の効率化が進んだという。CJ Logisticsは韓国国内に400か所、国外に40か所の物流拠点を運営しており、今後はこれらの拠点にもローカル5Gの導入を拡大していく見込み。エリクソンの専用ネットワーク部門責任者を務めるThomas Noren氏は「CJ Logisticsとの取り組みは、ローカル5G網がビジネスにもたらすメリットを示す画期的な例」とし、「わずか22のRadio Dot(超小型基地局)を設置するだけで、ローカル5G網は接続性を保証し、正確なマテリアルフロー、合理化されたサプライチェーン、安全対策の強化、コスト削減、持続可能な慣行のための革新的なエンドツーエンドのソリューションをサポートする」とコメントしている。
原文:https://www.ericsson.com/en/news/2023/12/cj-logistics-5g-enterprise
アップル「Vision Pro」、ローカル5G普及の起爆剤となる可能性
【sdxcentral 12/9 】
https://www.youtube.com/watch?v=TX9qSaGXFyg&ab_channel=Apple
(アップルによるVision Proの紹介動画)
アップルは今年6月、ARヘッドセット「Vision Pro」を発表し、2024年中にも発売することを明かした。3,499ドル(約50万円)という強気の価格設定も驚きをもたらしたこの端末だが、調査会社Technology Business Research(TBR)のあるアナリストが先ごろ、この「Vision Pro」がローカル5G普及の起爆剤となる可能性に言及している。TBRのテレコム・プラクティス担当プリンシパルアナリストを務めるChris Antlitz氏は最近行われたウェビナーの中で「プライベート・ネットワークへの支出は昨年40億ドル(約5,800億円)強を記録したが、2027年末までにはほぼ倍増する」とし、「これまではすでに確立された4G LTE技術がフォーカスされてきたが、2026年からは5G機器が大半を占めるようになる」とコメントした。
Antlitz氏はここでローカル5G市場の拡大を牽引する技術として、ビジュアル・インテリジェンス(コンピューター・ビジョン)に言及。「Vision Pro」が市場のターニングポイントになると予想している。「プロトタイプのデモを行った人々から得たフィードバックは、圧倒的にポジティブなものだった。最初のiPhoneの後にスマートフォンが大流行した歴史を振り返ってみると、同じような出来事が(ARヘッドセットにも)起こると思う」(Antlitz氏)「Vision Pro」と5Gについては、調査会社PP ForesightのアナリストであるPaolo Pescatore氏も今年6月「通信事業者にとって5G SAの機能を最大限に活用する絶好の機会をもたらす」と指摘。Pescatore氏は同端末が「通信事業者がより多くのデバイス、サービス、サブスクリプションをバンドルし、さらなる販売台数や収益を上げるために最も重要なものとなる」と予想し、「通信事業者が5G SAや、MR(Mixed Reality、複合現実)体験の向上に役立つその他の新たなネットワーク機能を始動する重要な時期に発売されるだろう」とコメントしていた。
アップル、6G技術開発推進で新たな人材募集を開始
【lightreading 12/5】
アップルが次世代通信技術である6G関連の新たな人材募集を開始したとBloombergのMark Gurman記者が報告している。クアルコムなどのチップメーカーへの依存度を下げるため、5Gモデムを自社開発しているという話が報じられているアップルだが、6G開発についても狙いは同様とみられる。Gurman氏によれば、新たに求人募集が出たのは「モデム・システム・ソフトウェア・アーキテクト」という職種で、同社のワイヤレス・テクノロジーズ&エコシステムズチームに加わることになる。具体的な役割については「6Gリファレンス・アーキテクチャの設計およびモデリングの推進・調整」などとされている。なお、Bloombergによれば、アップルは2021年から6G関連の求人を開始していたといい、当初は「ワイヤレス・リサーチ・システム・エンジニア」や「RAN1/RAN4スタンダーズ・エンジニア」といった職種が掲載されていた。6G技術に関連しては12月4日、無線通信システムの標準化を行う3GPPが6G仕様の策定に正式に着手する計画を発表。「3GPPは現在、リリース18に取り組んでおり、まもなく5G-Advancedに関連する仕様であるリリース19の策定に着手します。しかし、新たなモバイル世代の提供は数年にわたるプロセスです。そのため、6G仕様に向けた作業はかなり以前から計画されています」とするリリースを出していた。
原文:https://www.lightreading.com/6g/3gpp-apple-start-6g-push
原文:https://www.3gpp.org/news-events/3gpp-news/partner-pr-6g
原文:https://jobs.apple.com/en-in/details/200520108/modem-systems-software-architect?team=SFTWR