海外の5G動向【2024年3月度】
一見、平滑に見える舗装道路も、拡大して観察すれば不規則な凹凸で構成されている。クルマが道路の上を走ることができるのはその不規則な凹凸に合わせてタイヤが変形(密着)しているからだ。情緒的な表現になるが、これが本当に「寄り添う」ということだろう。工場も様々な設備が点在し、かつそれらが頻繁にラインを組み替えることもある。加えて、同じ敷地内に複数の建屋が存在しており、状況としては「不規則な凹凸だらけの路面」と同様、と考えられる。ここでは通信設備も様々な状況にフィットする形でインテグレートされる必要があるが、複数の無線システムが共存する工場内では干渉による通信の不安定化や設備稼働への悪影響も予想される。こうなると「ローカル5Gの工場への導入」は、実はその工場の持ち主(クライアント)と通信事業者の両社による共同事業開発という色彩が強くなることがわかる。以下でご紹介するトヨタ・マテリアル・ハンドリングのケースはこれが成功した事例、と考えることができるが、最終的な成果は様々な運用技術(Operational Technology)次第、ということも予想される。いずれにしてもローカル5Gの導入それ自体が目的化すると失敗する可能性が高い、とは言えるだろう。
以下、2024年3月の世界の5G・ローカル5G(および6G)の動向をお届けする。
テスラ、EVや人型ロボット向けのプライベート5Gインフラを開発か 【 lightreading 3/27】
米テスラが先ごろ、プライベート5G関連の新たな求人を開始した。自社のEVや開発中の人型ロボット「Optimus」の接続のためのプライベート5Gインフラ/機能の開発を示唆する動きと思われる。LinkedInに投稿されたこの求人によれば、新たなポジションは「セルラーシステム・インテグレーション・エンジニア」と呼ばれる職種で、「製造現場、屋外、R&Dラボなどのオンプレミスのユースケースのため、テスラ車両とOptimusの現在および将来の接続要件を理解するため」に雇用するようだ。また、同社のリード・スタッフ・エンジニアを務めるPat Ruelke氏はこの投稿の中で「テスラ製品と当社のプライベート5Gインフラの間に、シームレスなプライベート5Gサービスを構築するエースエンジニアを探している」と記している。テスラは現在、すべての自社製EVにインターネット接続機能を搭載。当初は3G接続であったものの、その後4G LTEにアップグレードされているが、今後は5Gへのアップグレードも視野に入れている。一方、テスラのプライベート5G活用については先ごろ、同社がインド通信大手のReliance Jioと将来のインド工場へのプライベート5G網導入に向けて交渉を進めているという話も報じられていた。
原文:https://electrek.co/2024/03/26/tesla-private-5g-evs-optimus-robot/
原文:https://www.lightreading.com/private-networks/tesla-eyes-private-5g-networks#close-modal
原文:https://www.teslarati.com/tesla-5g-capabilities-evs-optimus/
NVIDIA、AIを活用した6G研究プラットフォーム「NVIDIA 6G Research Cloud」を発表 【 reuters 3/18】
米半導体大手のNVIDIAは3月18日、AIを活用した無線技術開発の新たなアプローチを研究者に提供する6G研究プラットフォーム「NVIDIA 6G Research Cloud」を発表した。
このプラットフォームは、クラウド上での通信環境のシミュレーションを実現するもの。オープンかつ柔軟で相互接続が可能で、単一の基地局や都市全体などの環境のシミュレーションを実行するアプリが含まれる。これにより、企業や研究者はリアルタイムの6G網のテストが可能になる。同社によれば、Ansys、アーム、チューリッヒ工科大学、富士通、キーサイト、ノキア、米ノースイースタン大学、ローデ・シュワルツ、サムスン、ソフトバンク、Viaviなどがこのプラットフォームを最初に採用するエコシステムパートナーとなるという。NVIDIAのテレコム担当SVPを務めるRonnie Vasishta氏は「6Gにおけるコネクテッド・デバイスの大幅な増加と新たなアプリケーションのホストには、無線通信のスペクトル効率の飛躍的な向上が必要」とし、「AIやソフトウェア制御のフルRANリファレンス・スタック、次世代デジタルツイン技術の活用がこれを達成するカギとなるだろう」とコメントしている。
トヨタ・マテリアル・ハンドリング、生産効率化にエリクソンのローカル5Gを導入【 telecompaper.3/13】
スウェーデンのエリクソンは2月27日、トヨタグループのフォークリフト製造会社である米トヨタ・マテリアル・ハンドリングの生産施設に自社のローカル5G網を導入したことを発表した。エリクソンのチャネルパートナーで米システムインテグレーターのSTEPが設計・配備したという。エリクソンとSTEPは今回、インディアナ州コロンバスにある敷地面積約1万9,000平方メートルの工場にCBRS周波数帯を利用したローカル5Gを導入。この通信網は同工場の屋内外で稼働しており、作業員との通信やIoTベースの予知保全、車両管理、テレマティクスなどのための接続性を提供。生産性の向上や配送の迅速化、従業員の士気の向上といったメリットをもたらしたという。また、両社は同工場の敷地面積全体をカバーするために、米主要3キャリアと協力してパブリック5Gによるカバレッジの拡大を実現。トヨタ・マテリアル・ハンドリングはローカル5Gとパブリック5Gを組み合わせて使用し、重要度の低い通信と高い通信をそれぞれ処理しているという。STEPのEd Walton CEOは「インダストリー4.0戦略には、多様なニーズに対応するための拡張性と柔軟性が必要」とし、「トヨタ・マテリアル・ハンドリングは、STEPの支援でエリクソンのローカル5GおよびRadio Dot System(屋内モバイル接続ソリューション)を導入することで、多様なユーザーニーズに対応し、真のビジネス成果を促進しながら、運用効率を高め、現場でのデータの安全性を確保することができる」とコメントした。
インドTech Mahindraと台湾ペガトロン、大企業向けローカル5Gソリューションで協力【 thefastmode 3/1】
インドIT大手のTech Mahindraと台湾OEM大手のペガトロンは2月28日、バルセロナで開催された「MWC2024」の中で、グローバル企業向けのローカル5Gソリューション開発に関するMoU(協力覚書)を交わしたことを発表した。急成長するローカル5G分野で相互に有益なチャンスを探り、事業拡大を目指すという。このパートナーシップでは、ペガトロンの5G接続レイヤーおよびローカル5G製品をTech Mahindraの包括的な5Gサービスと組み合わせ、グローバル企業や製造業の顧客を想定した5Gソリューションを開発・提供する。また、災害対応のためのデジタルレジリエンスの強化、災害が発生しやすい地域や遠隔地での通信の改善にもフォーカス。さらに、5G無線アクセスネットワークと衛星通信技術を利用したエネルギー効率の良いソリューションで、最前線の災害救援部隊の支援も目指すという。Tech Mahindraのアジア太平洋・日本事業担当プレジデントを務めるHarshvendra Soin氏はこの協業について「ペガトロンのローカル5Gやスモールセル関連製品により、より幅広い顧客層にリーチできるようになる」とコメント。一方、ペガトロンのCTOを務めるShue博士は「世界中の企業がこの強力な5G製品ポートフォリオを体験し、AI主導のユースケースを中心とした柔軟で効率的なネットワークソリューションを構築し、投資を最適化する機会を得られる」と述べた。